ひび釉の皿に二つ
陶芸教室の一階カフェで、望海が頼んだのは煎茶だけだった。なのに栗餡と胡麻餡の団子が一つずつ、見覚えのある皿に載ってきた。
「料理も、この器も頼んでいません」
怪しいのは講師の都築、カフェ店主の犬飼、同じ教室の絃葉。先月、望海が焼いた小皿は棚から落ちて割れた。誰が触ったのか分からないまま、望海は教室を休みがちになっていた。
皿の割れ目には金色の線が走っている。団子は、以前二人が言い争った栗と胡麻の二種類。裏返すと、絃葉の「糸」の印が左右反対に押されていた。彼女は緊張すると、印面の向きを間違える。
「割ったの、絃葉さんですね」
絃葉は作業場から、金継ぎ用の筆を持ったまま現れた。棚の上段から自分の器を取ろうとして、望海の皿を落とした。すぐ謝るつもりが、望海が「気に入っていたのに」と泣くのを見て、怖くなった。
都築に頼んで金継ぎを習い、犬飼には、直した器が料理に使えるか試してほしいと頼んだ。カフェ端末の「器見」という試食コードなら、客の注文を立てずに小さな菓子を載せられる。
「勝手に直したことも、ごめん。元どおりじゃない方が嫌なら、作り直す」
望海は金の線を指でなぞった。割れる前より目立つ。それでも、隠さずつないだ跡は、言い訳よりずっとまっすぐだった。
栗か胡麻かで喧嘩したのは、二人で出す展示作品のテーマを決めるためだった。どちらかを選べず、話し合いまで投げた。
望海が惜しんだのは皿だけではなかった。絃葉と並んで土をこねる火曜の夜が、何も言わないまま終わったことの方が寂しかった。割れた瞬間より、隠された一か月が二人の間を広げたのだ。金の線は元どおりを約束しない。その代わり、どこで壊れ、誰がつないだかを忘れない。二人の展示も、完璧な一枚より、違う餡が同じ皿に載る方が似合う気がした。
犬飼が新しい煎茶を二杯置き、都築は何も言わず作業場へ戻った。謝る人と受け取る人の間には、見守るだけの手も必要だった。
望海は胡麻団子を半分に切り、絃葉の皿へ移した。
「まず両方、食べてから決めよう」