ほどけない荷札
夕方便の締切直前、宅配会社の仕分け場で、同じ荷物が三度目のベルトを回ってきた。
システム運用の鉢嶺純は、黄色い医療用保冷箱に貼られた荷札を覚えていた。離島行きの検体で、空港便へ載せなければならない。ところが自動仕分け機は箱を空港レーンへ送らず、読取不能の戻り口へ落とし続けている。
現場主任はラベルの汚れだと思い、新しい荷札を重ねて貼ろうとした。
「貼り替えないでください。文字は読めています」
OCRの認識結果には、郵便番号も住所も正しく出ていた。問題は読み取りではなく、認識後に参照するルーティングテーブルだった。昼の更新で、新設された町名が離島ではなく「地域未確定」に登録されている。正しく読めた荷物ほど、間違った戻り口へ送られていた。
純は更新前へロールバックする間、ベルト全体を止めなかった。締切前の荷物が数万個あり、全停止すれば正常な便まで落ちる。該当地域だけを自動仕分けから外し、作業員に青い台車へ集めてもらう。郵便番号の上三桁を声で確認し、空港便と陸送便を手で分けた。
主任が聞く。「更新が戻ったら、青い台車を全部流し直すか?」
「一箱だけ試します。間違った設定が別の場所に残っているかもしれません」
純は医療用保冷箱を最初に選んだ。時間に余裕がないからではない。失敗したときに最優先で人が運べるよう、先に結果を知るためだ。
箱は読取機を通り、今度は空港レーンのランプが点いた。純は終点まで走り、実際に正しいかごへ落ちるのを見届けた。その後で青い台車の荷物を少しずつ戻した。
締切二分前、保冷箱は空港便へ積まれた。純は積込番号を依頼元へ連絡し、画面上の「仕分け済み」だけで安心させなかった。主任は荷札を撫でて笑った。「機械より足が速いな」
純が更新担当へ原因を報告したとき、夜行便の荷物が到着した。ベルトが再び低く唸る。
一番上には、同じ新設町名の荷札が何十枚も並んでいた。
純は青い台車を片付けず、戻り口の横へ置いたままにした。復旧とは、次の荷物が同じ罠に落ちないことだった。