マネージャー失格の日
最後の大会の朝、私は冷たいタオルを全部忘れた。
保冷箱はある。氷もある。けれど洗濯したタオルを部室の棚に置いたまま、試合会場まで来てしまった。
マネージャー三年目で、最悪の失敗だった。
「買ってきます」
顧問へ言うと、主将が止めた。
「試合始まる」
「だから急ぐ」
「一人で行くな」
近くの店まで往復三十分。私は走ろうとしたが、選手たちが自分の予備シャツやハンカチを出し始めた。保護者が新品のタオルを分け、控え選手が水で濡らした。
試合は始まった。
私はベンチで何度も謝った。誰も責めなかった。それが余計につらかった。
チームは準々決勝で負けた。
学校へ戻った夕方、部室の棚には、きれいに畳まれたタオルが二十本あった。使われなかった冷たさが、そこに残っている気がした。
私は一人で保冷箱へ氷水を作り、全部浸した。
「何してるの」
主将が入ってきた。
「今日の分」
「終わったよ」
「分かってる」
絞ったタオルをベンチへ並べた。誰も使わない。夕日が一枚ずつを赤く染めた。
「私、最後に失格だった」
三年間、忘れ物をしないことだけは誇りだった。選手が集中できるよう、先回りして準備する。それを最後に壊した。
主将は一枚取り、私の首へかけた。
「冷たい」
「当たり前」
「今日、一番走ったのマネージャーだよ」
会場で店を探し、保護者へ頭を下げ、代用品を集め、試合中もずっと動いた。
「でも忘れた」
「俺たちも点を取り忘れた」
「一緒にしないで」
「最後なんだから、一緒に失敗しよう」
彼は他のタオルを持ち、部員へ配り始めた。引退した選手たちがグラウンドから戻り、「今?」と笑いながら受け取った。
夕暮れのベンチに、冷たいタオルを首へかけた三年生が並んだ。
失格の日のはずなのに、誰も私を外へ出さなかった。
卒業前、主将から部員全員の写真をもらった。裏にはこう書かれていた。
『忘れたのはタオルだけ。三年間は忘れない』
私はその紙を、予備タオルと一緒に鞄へ入れた。
写真の中では、全員の首に同じ白い布があった。忘れたはずの日が、いちばん揃った一枚になった。