ロバの荷台は半分でいい
瓜生野樹里は、山あいの農園カフェを切り盛りしている。
朝は野菜を収穫し、昼はスープを出し、夕方は瓶詰めを発送する。人に頼むより自分で動いた方が早いと思い、いつも両手に何かを持っていた。
農園のロバ、カポは、荷車を引くときだけ心で話す。
『重い』
「いつもと同じ量」
『昨日の脚と、今日の脚は違う』
「坂を上れば休めるから」
『お前が言うと信用できない』
カポは一歩も動かなかった。
荷車には南瓜の箱が四つ、林檎が二箱、薪が一束。
樹里は手綱を引いた。
「予約のスープに間に合わない」
『半分』
「二往復になる」
『二人なら半分ずつ』
「誰と?」
カポは長い耳を、畑の向こうへ向けた。
隣の農園で働く高校生の柚木が、収穫籠を洗っていた。
樹里は声をかけるのをためらった。忙しいかもしれない。断られたら気まずい。
『人間は、頼む前に断られる』
カポが鼻を鳴らす。
「心を読むな」
『顔に書いてある』
樹里が事情を話すと、柚木は「あ、手伝います」とあっさり答えた。
南瓜と林檎を半分ずつ別の台車へ移す。荷が軽くなると、カポは何事もなかったように歩き出した。
『ほら』
「得意そうだね」
『賢いからな』
仕込みは予定より早く終わった。
樹里は礼に、柚木へ根菜スープを一杯出した。自分も向かいへ座り、遅い昼食を取る。
人参、牛蒡、南瓜。湯気に土とバターの匂いが混じる。カポには飼育員が干し草を用意し、窓の外でゆっくり噛んでいた。
「一人でやるより早かったです」
柚木が言う。
「そうだね」
樹里は素直に認めた。
今まで速さを求めて、頼む時間を惜しんでいた。けれど食卓に誰かが増えたぶん、午後の仕事まで軽くなった気がした。
閉店後、空の荷車を引くカポと坂を下った。
『軽い』
「何も載ってないから」
『お前の肩も』
「見えるの?」
『匂う』
農園には夕方の冷たい風が吹き、納屋から干し草の甘い香りが流れてくる。
樹里はカポの首を撫でた。温かな毛の下で、ゆっくりした呼吸が動いている。
翌日の作業表には、初めて「手伝いを頼む」と書いた。
荷台を半分空けることは、足りなくすることではない。誰かが並ぶ場所を作ることなのだと、ロバの背中が静かに教えていた。