ロビーの鏡に映る制服じゃない僕ら

私服行動の朝、旅館のロビーには知らない集団がいた。

花柄のワンピース、古着のジャケット、部活のジャージ、家族旅行で買ったらしい派手な帽子。制服なら一目で同じクラスだと分かるのに、色も形もばらばらで、青慈は少し離れた柱のそばに立った。

大きな鏡に、四十人が映っている。

昨日まで名札と校章が教えてくれた関係が、そこにはなかった。廊下ですれ違えば同級生だと断言できる相手なのに、観光客の中へ一人ずつ混ざれば見失いそうだった。青慈は、それを少し寂しく、少し面白く感じた。

教室では前の席の子が、私服では急に大人びて見えた。いつも怖い顔の子は、動物の絵がついた靴下を履いていた。無口な男子は妹に選ばれたという桃色のマフラーを何度も直していた。

青慈自身は、無難な紺の服を選んだ。誰にも何も言われないための服だった。

先生が点呼を始める。

名字を呼ばれるたび、鏡の中の誰かが手を挙げる。その動作を見て、ようやく知っている人だと分かる。制服ではなくても、返事の仕方、笑うときの肩、遅刻した友達のために少し場所を空ける癖は同じだった。

点呼の途中、鏡の端で誰かが友達のフードを直した。別の誰かは、慣れない革靴で歩く子へ絆創膏を渡した。色は違っても、教室で積み重ねた小さな世話焼きだけは、同じ形で残っていた。

最後の一人が駆け込んできた。全員が文句を言いながら、その子の鞄を持ち、ほどけた靴紐を待った。

鏡の中で、ばらばらだった服が一つの塊になる。

「写真撮るぞ」

先生が言った。

青慈は列へ入る前に、携帯で鏡を一枚だけ撮った。誰もカメラを見ていない写真だった。髪を直す子、袖を引く子、眠そうな子、友達を呼ぶ子。学校では見えない色を着たまま、それでも確かに同じクラスだった。

旅行から帰る日、全員がまた制服へ戻った。

ロビーの鏡には、見慣れた集団が映った。きれいにそろっているはずなのに、青慈には前より少しだけ物足りなく見えた。

教室へ戻ってからも、彼はときどき写真を開いた。

あの朝だけ、クラスは制服でできていないことが見えた。