一つ多いゼロ
花蓮は請求書が届くと、私へ渡す前に必ずコピーを取った。
金額のゼロへ赤い丸をつけ、原本を透明袋へ入れる。「経理でもないのに」と笑うと、「前と数字が違ったので」と答えた。私は彼女の電卓を古いものへ替えておいた。ボタンが固い方が、慎重になる。
店舗開発部で、花蓮は仕入れ先の選定を担当していた。人柄で業者を信じすぎ、値段の比較が甘い。私は何度も見積もりの穴を見つけ、より安い会社へ切り替えて利益を守ってきた。
月例会議では削減額の大きい順に名前が読み上げられる。私が三か月連続で一位になったとき、花蓮は拍手しながら請求書の数字だけを見ていた。
新店舗の什器でも、花蓮が推した工房の見積もりは四百八十万円だった。高すぎる。私が見つけた会社なら三百二十万円。会議資料を作り、「百六十万円削減」と分かりやすく示した。
ところが役員会で、花蓮が私の削減案を自分の名前で説明した。
「仕入れ先の再審査を提案します」
悔しくて、私はすぐ口を挟んだ。
「高額見積もりを発見したのは私です」
「本当に四百八十万円でしたか」
「資料にあるでしょう」
花蓮は原本を映した。金額は四十八万円だった。私の資料と共有フォルダのPDFだけに、ゼロが一つ増えている。
「桁を見落としたのはあなたでしょう」
「原本の桁は合っています。コピーも受信時刻のままです」
「工房が差し替えたのよ」
「メール添付のハッシュも同じです」
次に、私が勧めた会社の見積もりが出た。三百二十万円のうち、紹介手数料が別会社へ流れ、その代表は私の姉だった。
私は家族だから選んだのではないと説明した。品質を知っている業者を紹介しただけだ。花蓮の工房が四十八万円で作れるはずもなく、どうせ追加費用が出る。長い目で見れば私の方が正しい。
花蓮は手柄を奪ったのではなく、削減案の提案者として監査を正式に求めたのだ。役員は発注を止め、私の端末を保全した。
原本にはない一つのゼロだけが、私のPDF編集ソフトのフォントでできていた。