一つ星の身体
千田燈也は毎朝、妹の和花が借りる身体のレビューを読み上げる。星一・二。歩くと左膝が鳴る、笑顔が怖い、指先が冷たい。安い理由を笑い話にすれば、専門学校へ通う交通費も少しは軽くなった。
貸出身体の評価は、利用者が変わっても引き継がれる。建物やサービスは、その星の数だけを見て入場を決める。それが一つの規則だった。
雪の夜、和花から着信が来た。
『アパートに入れない』
玄関認証が更新され、星二・五未満の身体は防犯上入居できなくなったという。契約しているのは和花なのに、扉は身体評価だけを見ていた。
燈也が管理会社へ電話する。
「本人です。家賃も払ってます」
《入居者の意識情報と、建物へ持ち込まれる身体リスクは別です》
和花は薄い制服のまま、玄関前に立っていた。貸出身体の体温調節にも《効きが悪い》というレビューがある。
燈也は自分の部屋へ来るよう言った。
『駅の改札も通れない。星二以下は夜間移動禁止だって』
配車を呼ぶ。
《乗車可能な身体評価:三以上》
救護を申請する。
《疾病ではなく契約上の滞留です》
燈也は走って迎えに向かった。三十分後、アパート前で和花を見つける。唇が青い。
「身体を交換しよう」
兄の身体は星四・八。現場交換には二人分の本体保管施設へ接続する必要があり、最短でも一時間かかる。
燈也は上着を脱いで妹へかけた。
玄関の内側には暖房が見える。住民が通るたび扉が開くので、二人で一緒に入ろうとした。
警報が鳴った。
《低評価身体の尾行侵入を検出》
住民が驚いて離れる。和花の星が一・一へ下がった。
「私、何もしてないのに」
「身体が前に何かしただけだ」
「それって私じゃないよね」
燈也は答えた。
「お前じゃない」
しかし扉は聞かない。
和花は兄の肩へ頭を預けた。貸出身体の指先が、本当に冷たかった。
朝、管理会社が職員を寄こした。
和花は玄関横で動かなくなっていた。意識は低体温信号に巻き込まれ、本体でも昏睡している。
職員は身体の状態を確認し、端末へ入力した。
《入居妨害および共用部長時間占有》
《評価:星〇・八》
「救急を先に呼べ」
燈也が叫ぶ。
職員は首を振った。
「星一未満の身体は、廃棄回収が優先です」
回収車の荷台へ載せられる妹を、アパートの扉は一度も入居者として開かなかった。