一グラム重い天空城

「物を一グラム重くする? 小麦一粒ほどでは秤も動かぬ」

天秤魔術院の卒業判定で、ドレアスは無能とされた。

【魔法:《一グラム》――触れた無生物一つの重さを、日没まで一グラムだけ増やす】

人も建物も押せず、武器の威力も変わらない。ドレアスは天空城の荷重記録係へ回された。

樽一つ積むたび数値を書き、白金球の検査日には一グラム単位で帳簿を合わせた。空を支える術式ほど、わずかな誤差を恐れていると知っていた。

反乱軍が天空城を奪った日、王都は真下にあった。

城は二つの浮遊炉を天秤で完全に釣り合わせ、空へ留まる。反乱将は城底の落雷砲を開き、天帝カシオンへ退位を迫った。外から攻撃すれば浮遊炉が爆発し、王都へ城ごと落ちる。

ドレアスは記録係として、天秤室の癖を知っていた。

中央には、重さの基準となる白金球が一個吊られている。左右の炉が一グラムでも釣り合わなくなると、城は砲撃を禁じ、最寄りの着陸環へ自動降下する。事故を恐れた古代人が定めた仕組みだった。

「一グラムの差など作れないよう、白金球は密封されている」

反乱兵が笑う。

だがドレアスは荷重簿を届ける下級役として、天秤室の内側にいた。砲撃開始まで十を数える声が響く。彼は水晶箱へ両手を当てた。箱の中の球へ直接は触れられない。それでも球から垂れる計測鎖の先端だけは、箱外の調整穴へ出ている。鎖も含めて基準重り一つだ。

《一グラム》

白金球と鎖の重さが、麦一粒ほど増えた。

警報鐘が鳴り、落雷砲が閉じる。天空城は王都上空を離れ、郊外の着陸環へ向かって降下した。反乱将が炉を再起動しようとしても、安全術式がすべての命令を拒んだ。

地上で待つカシオンの近衛軍が城門を包囲し、反乱兵は逃げ場を失う。

判定官が「古代の安全装置に助けられた」と言う。

天帝は天秤室から白金球を外し、その者の両手へ載せた。

「安全装置を知りながら、我らは大砲ばかり数えた」

カシオンは天空城の主印をドレアスへ渡す。

「今日からこの城では、一グラムを笑った者から先に地上へ降ろせ」