一円玉の福神

スーパーのセルフレジの釣り銭口に、金色の小人が挟まっていた。

長くレジを担当してきた店員が、硬貨の詰まりを直そうとして見つけた。

「福神だが、ここから動けん」

小人は情けない声で言った。

「釣り銭を人の手から人の手へ渡し、双方が『ありがとう』と言ったときだけ、次の掌へ移れる」

店はキャッシュレス化を進めていた。

有人レジは一台だけになり、店員も来月から品出しへ移る。

効率のよい仕組みに、自分だけ取り残される気がしていた。

福神を出すため、店員は有人レジを開けた。

最初の客は急いでおり、釣り銭を受け取ると無言で去った。

小人は店員の掌から動かない。

次の客は耳の遠い老人だった。

店員がゆっくり金額を示し、硬貨を一枚ずつ渡す。

「ありがとう」

老人が言う。

店員も、

「ありがとうございます」

と答えた。

福神は一円玉へ乗り、老人の掌へ移った。

だが老人がその硬貨を募金箱へ入れると、中でまた困っている。

若い店員が笑った。

「ずっと有人レジを残すんですか」

「神様のためでは無理ね」

「人のためなら?」

二人で店内を見た。

セルフレジを使いこなす客も多い。

待たずに済み、自分の速度で会計できる。

一方、商品の持ち方や画面操作を手伝ってほしい人もいる。

店は有人レジを「遅い列」と呼ばず、相談対応の窓口として一台残すことにした。

現金だけでなく、セルフレジで困った人、袋詰めを手伝ってほしい人も利用できる。

店員は品出しと交代で担当した。

福神は、募金箱から子どもの手へ、子どもから菓子屋の店主へ、少しずつ町を巡った。

一円玉で買える物はほとんどない。

それでも手渡す一瞬には、相手の顔を見る時間があった。

数か月後、店員は品出しの仕事にも慣れた。

売場で客から場所を聞かれ、重い米を運び、セルフレジの案内もした。

自分の役目は釣り銭だけではなかった。

ある日、金色の小人が再び店へ戻ってきた。

今度は電子決済の端末へ座っている。

客が会計後、若い店員へ、

「助かりました」

と言い、店員も礼を返すと、福神は嬉しそうに光った。

硬貨がなくても、手渡せるものは残る。

店員は笑い、端末の横へ小さな椅子を一つ置いた。