一夜だけの指先

王妃の喪服を夜明けまでに仕上げられなければ、アンバーの仕立工房は閉じる。

親方は高熱で針を持てない。職人たちは三日眠っていない。残るのは、最も難しい銀糸の裾模様だった。見習い五年目のアンバーには、まだ縫えない。

納品を落とせば違約金で工房は潰れる。そこには、家を出たばかりの娘も、病気の夫を養う裁断師もいる。親方は熱に浮かされながら「これは私の失敗だ」と繰り返したが、工房で覚えた技も、食べた夕食も、アンバーには自分の人生だった。誰か一人の店ではなかった。

深夜、彼女は職人街の「技を貸す店」へ駆けた。

「親方と同じ縫い方を、朝まで貸してください」

店主は指輪の形をした糸巻きを出した。

「一つの技を借りる代金は、あなたが別の技を覚えた記憶を一つ」

アンバーが差し出せるのは、母に刺繍を習った午後だった。

七歳の彼女は針へ糸を通せず、何度も泣いた。母は笑わず、布の裏から針先が出る瞬間を一緒に待った。初めて縫えたのは、形の崩れた黄色い花。その布は今も裁縫箱に入っている。

母は仕立職人になる前に亡くなった。だからアンバーは、上達するたび裁縫箱を開け、最初の花へ新しい仕事を見せてきた。誰にも褒められない夜も、それで針を持ち直せた。

あの日が、仕立職人を目指した始まりだった。

「技だけ忘れて、母の顔は残りますか」

「午後のすべてが代金だ。手の置き方も、声も、花ができたときの嬉しさも」

工房には、自分より若い見習いが四人いる。閉じれば、全員が仕事を失う。始まりを守って、今の仕事を終わらせないわけにはいかない。

アンバーは糸巻きを指へはめた。

母の手が自分の手に重なる。布の裏から針が出る。黄色い花が一針ずつほどけ、白い空白になった。

代わりに、知らない精密さが指へ満ちる。

工房へ戻り、裁縫箱を開けた。歪んだ黄色い花の布がある。誰が縫ったのか分からなかった。

アンバーはそれを脇へ置き、王妃の喪服へ針を刺した。

最初の一針は、親方よりも正確だった。