一席で予約する

叶恵は、一人で出かけたい場所を見つけると、まず同行者を探した。

元恋人に「一人じゃ何もできないよね」と言われたことが、ずっと刺さっていたからだ。

彼は店も旅行先も決めてくれた。別れたあと、叶恵は一人で行けることを証明したかったが、失敗するのが怖くて、結局いつも誰かを誘った。断られると予定そのものを諦めた。

市民ギャラリーで、陶器に絵付けする小さな講座が開かれると知った。定員八名。青い釉薬で作られた見本の皿が、窓辺に並んでいる。

叶恵は申し込み画面を開き、大学時代のグループチャットにもリンクを貼った。

「誰か一緒に行かない?」と打つ。

送信する前に、参加枠が残り一名と表示された。

誰かの返事を待てば埋まるかもしれない。だからといって、一人で申し込み、当日うまく話せず帰る自分を想像すると指が止まった。元恋人の言葉を否定できない結果になりそうだった。

叶恵はグループチャットの下書きを消した。

申し込み人数を「一名」にし、名前と電話番号を入力した。備考欄には何も書かなかった。

押す直前まで、叶恵は別の友人の顔を思い浮かべた。一人だけなら誘えば来てくれるかもしれない。誰かが隣にいれば、講師への質問も会場での昼食も任せられる。けれど誘う理由が楽しさの共有ではなく、自分の不安を預けるためだと気づいた。叶恵は連絡先を開かず、指を画面の中央へ戻した。

確定ボタンを押すと、受付完了の画面が出た。

胸が躍るより先に、不安が増えた。道に迷うかもしれない。席が固定で、隣の人と話す必要があるかもしれない。前日になってキャンセルする可能性もある。

叶恵は、自分を勇敢だと思う代わりに、予定表へ講座の時間だけ入れた。

当日の朝、雨ならどうするか。何を着るか。考えることはまだ多い。

それでも「誰かが行くなら行く」という条件は書き足さなかった。

確認メールには、参加人数一名とある。叶恵はその文字をスクリーンショットにして誰かへ送らず、受信箱を閉じた。