一粒まで数える農学校
収穫町では、農民ほど自分の麦の値段を知らなかった。
仲買人は秤に袋を載せ、「湿り気二割」「殻混じり一割」と勝手に差し引く。計算できない農民は提示額を受け取るしかない。抗議した老女は翌年から買い取りを断られ、納屋に麦を腐らせた。
市場監督クレフは、大人向けの農学校を夜に開いた。
教えるのは読み書き全部ではない。重さ、割合、利息の三つ。費用は市場の計量台を使った取引量に応じ、百袋につき銅貨二枚。自家消費や隣家との物々交換には掛けない。集まった銅貨、教師代、共用秤の検査費は、取引板の表側へ大きく書く。
仲買人組合は「農民に余計な知恵を」と抗議した。
クレフは共用秤へ自分の俸給袋を載せた。
「余計かどうかは、払う側が決めます。あなた方も計算が正しければ困らないでしょう」
最初の生徒は、買い取りを断られた老女だった。粉屋が算盤を教え、若い農夫が十袋ずつ数える木枠を作った。読みづらい者には、麦粒百個を実際に並べて割合を示した。夜ごとに笑い声と、珠を弾く乾いた音が校舎から漏れた。
授業へ出た者だけで秘密の組合を作ることは禁止しなかったが、価格表と計算法は校外の者にも無料で渡した。学べない夜がある農民を、また弱い側へ追いやらないためだ。代わりに受講者たちは、月一度、隣家へ算盤を持って行く自主当番を始めた。
次の収穫日、仲買人が老女の麦へ言った。
「湿り気二割。銀貨八枚だ」
列の後ろから答えを教える声は上がらなかった。老女が自分で最後まで計算する時間を、誰も急かさず待った。それも学校で覚えた公平さだった。
老女は小瓶の標準麦と比べ、共用秤で重さを測り、算盤を弾いた。
「湿り気は五分。銀貨九枚と銅貨五十枚。検査結果も、ここにあります」
後ろに並ぶ農民全員が計算表を持っていた。仲買人は別の町へ行くと脅したが、粉屋とパン屋がその場で正しい価格を提示した。
老女が最初の売買を終えると、自分の手で価格板へ数字を書いた。次の農民がその下へ続ける。
市場の壁に初めて、買う側ではなく、作った側が決めた値段が並んだ。