三つの名字の郵便受け

修吾は、父の家の郵便受けを付け替えるために呼ばれた。

古い箱は雨水が入り、封筒の端が毎回ふやける。父は腰を痛めており、再婚相手の環が脚立を押さえた。

新しい郵便受けには、名前を書くプレートが三枚ついていた。父の名字、環の名字、そして修吾の名字は全部違う。父母の離婚後、修吾は母方の姓に変えた。環は仕事上の都合で旧姓を使い続けている。

「一枚でいいでしょう。住所が合ってれば届く」

修吾が言うと、環は三枚をテーブルへ並べた。

「宅配便の人、迷うから」

「俺の郵便、ここには来ないです」

「転送し忘れた年金の書類、先月来たよ」

「それは事故です」

「事故対策」

環は油性ペンを差し出した。

三枚のプレートは色も書体も同じで、名字だけが揃わない。環は順番を年齢にも結婚の時期にもせず、単に文字数が収まりやすい並びにした。

二人で壁に穴を開けた。古いねじ穴と位置が合わず、修吾がアンカーを打ち、環が掃除機で粉を吸う。父はソファから口だけ出し、「右が下がってる」と言った。

「自分でやれ」

修吾と環の声が重なった。

思わず二人で笑ったあと、父だけ不満そうな顔をした。

郵便受けを水平にし、蓋の開閉を確かめる。環は一番上に父の名字、二段目に自分の名字を書いた。三段目のプレートは空白のまま修吾へ渡した。

修吾はペン先を浮かせた。

「ここに住んでない」

「住んでる人だけなら、お父さんの名前も外したい」

「聞こえてるぞ」と父が言った。

修吾は自分の名字を書いた。文字の大きさが他の二つより少し小さくなった。環は直さず、そのまま差し込んだ。

作業後、試しに空の封筒を入れ、雨除けの具合を水道ホースで確かめた。中は濡れなかった。環は封筒を取り出し、修吾へ渡した。

「宛名がない」

「次に来たとき用。中身、入れとく」

封筒は軽かった。開けると、門扉と玄関の暗証番号を書いた紙が一枚だけ入っていた。

修吾は紙を財布へしまい、空の封筒を郵便受けへ戻した。自分の名前の真下へ入れる。

三つの名字は揃って見えなかった。それでも、配達する人は迷わない。修吾も次は、玄関前で電話をかけずに済む。