三分間の休暇
入社七年目の社員は、昼休みにも仕事をしていた。
休めば遅れる。遅れれば誰かへ迷惑がかかる。
机には栄養食品の包みが積み上がり、同僚から「顔色が紙みたい」と言われても笑って済ませた。
資料室へ古い契約書を取りに入り、扉を閉めると、外の一分が、中では一日になった。
最初の一日は、探し物をした。
二日目も、棚の番号を確認した。
資料はすぐ見つかったのに、社員は扉を開けなかった。
非常用の水と乾パンがあり、古い長椅子もあった。
三日目、何もしないで眠った。
目が覚めると、罪悪感で胸が苦しくなった。
外では三分しかたっていない。
誰にも迷惑はかかっていないはずなのに、休んだことが悪事のように思えた。
棚の隙間に、昔の休暇申請書が挟まっていた。
十年前の社員たちのものだ。
「子どもの発熱」
「父の介護」
「失恋のため一日」
最後の理由に、思わず笑った。
承認欄には、今の厳しい部長の判が押してある。
さらに奥から、部長自身の古い申請書が出た。
「限界のため三日」
たったそれだけ。
その下に、当時の上司の字で、
「戻ってこなくても困るが、壊れて戻らない方がもっと困る」
と書かれていた。
社員は長椅子へ横になった。
資料室の三日目を、最後まで休むことにした。
天井の染みを数え、乾パンをゆっくり食べ、仕事のことを考えたら紙へ書いて脇へ置いた。
夕方には、紙の山ができていた。
その半分は、自分がしなくても誰かに頼める仕事だった。
扉を開けると、外では三分が過ぎていた。
部長が廊下に立っていた。
「資料一つに遅い」
社員は反射的に謝りかけ、古い申請書を差し出した。
「これ、部長ですよね」
部長の顔が赤くなった。
「資料整理をしろとは言ったが、発掘しろとは言ってない」
社員は翌週、三日間の休暇を申請した。
理由欄には、
「限界になる前のため」
と書いた。
部長は何も言わず判を押した。
本当の三日間は、資料室より短く感じた。
洗濯をし、長く眠り、友人と食事をした。
戻ると仕事は少し増えていたが、会社は倒れていなかった。
資料室の扉はその後、普通の時間しか流さない。
それでも社員は昼休みになると、机を離れる。
三分で三日休めなくても、三十分を三十分として使うことなら、もうできた。