三枚目の社
鷺沢柊吾はスマートフォン向けカメラの画質評価を担当していた。曇天の被写体を探し、社内掲示板で見つけたのが朽舟山の禁足社だった。投稿には撮影上の注意がある。
《朽ちた社を、同じ位置から三枚続けて撮ってはいけない》
柊吾は露出を変えるブラケット撮影の禁止だと気づいたが、理由は書かれていなかった。投稿者のアカウントは退会済みなのに、添付画像の閲覧数だけ毎日三ずつ増えている。画像そのものは「撮影者が不在のため表示できません」と出た。
社は倒木に埋もれ、扉だけが立っていた。柊吾は一枚目を標準、二枚目を暗く撮った。警告を思い出したが、ノイズ比較には三枚必要だった。評価のため一度だけ三連写ボタンを押し、アプリに三枚目を撮らせた。
禁忌を破ったのは、その一度の三連写だけだった。
一枚目には閉じた扉。二枚目には半開きの扉。三枚目には、扉の向こうからこちらを撮る柊吾自身が写っていた。三枚の撮影時刻は同じなのに、端末の所有者だけが《柊吾》《社》《撮影者》と異なり、三枚目の保存先は柊吾の端末ではなかった。手にした端末の画面には、さらに小さな柊吾がいる。拡大するたび、違う場所の柊吾が現れた。会社、電車、実家、まだ行ったことのない病室。
柊吾は三枚を消去し、初期化して下山した。帰路の足音は、シャッター音のたび一人分ずつ増えた。
翌日、写真アプリが「重複写真の整理」を提案した。
《同一人物を三件検出しました》
A:現在の鷺沢柊吾
B:社の内側の鷺沢柊吾
C:撮影者
「一件を残してください」とある。柊吾はAを選んだ。処理は長く続き、やがて完了通知が出た。
《選択された人物を削除しました》
アルバムから柊吾の姿だけが消えた。旅行写真も社員証も、背景だけになっている。鏡にはまだ映る。だが顔認証は反応せず、同僚の端末も彼を人物として認識しなかった。
最後に「一年前の思い出」が自動作成された。日付は今日。映像には柊吾の部屋があり、机の上のスマートフォンだけが三回シャッターを切る。
一枚目、誰もいない。
二枚目、扉が開く。
三枚目、画面を見ている柊吾の背後に、撮影者が立つ。
通知が表示された。
《残す人物を選び直しますか》