世界最古の子を乳母車へ
孤児院の乳母車押しパムカは、戦える職業ではなかった。
泣く子を市場へ連れ、眠った子を起こさず診療所へ運ぶ。騎士は乳母車を道の邪魔だと蹴り、領主は「親にも捨てられた子へ車など贅沢だ」と車輪の修理費を削った。
技能も子守の延長に見えた。
【揺籠搬送:眠りを必要とする子一人を、母のもとまで揺らさず運ぶ。年齢と種族は問わない】
「百歳の子どもでも運ぶのか」
領主はそう笑って、孤児院の地下まで鉱脈を掘らせた。
その夜、大地が泣いた。
地下で眠っていた始原竜の背を坑道が傷つけ、王都の地面が持ち上がる。城壁は鱗の隙間から滑り、家々は背中の上で崩れ始めた。竜が完全に目覚めれば、寝返り一つで国が割れる。
討伐隊の剣は山ほど大きな鱗に届かない。領主は採掘命令を隠し、孤児院が竜を怒らせたと言って子どもたちを生贄に差し出そうとした。
パムカは乳母車を竜の露出した角の前へ押した。
「それで何をする。あれは世界より古い怪物だぞ!」
「古くても、母から生まれた子です」
始原竜は目覚めたいのではない。傷が痛くて眠れないのだ。角へ触れると、遠い北の母山を求める低い声が車輪へ伝わった。
パムカは乳母車へ竜の欠けた鱗を一枚載せ、毛布を掛ける。乗ったのは鱗ではなく、それにつながる一頭の子だった。
技能を一度使うと、王都の下でうねっていた巨体が金色の光へほどけ、乳母車の中へ丸く収まった。世界最古の竜は小さな寝息を立て、車輪は石畳の割れ目を一つも拾わない。
パムカが三歩押すと、道は北の母山の麓へつながった。乳母車を雪の窪みへ止めた瞬間、竜は再び山ほどの姿へ戻り、母山の懐へ頭を埋めて眠る。
王都の地面は静まり、露出した坑道から領主印の違法採掘命令書が風に飛び出した。
孤児院へ戻る道では、騎士たちが乳母車の前から自分で退いた。領主は採掘記録を燃やそうとしたが、地面が静まった時には隠し金庫ごと坑道から押し出されていた。修理費を削られた車輪には、母山の銀鉱から作られた新しい輪がはまった。
《職業が【乳母車押し】から【始祖育送聖】へ書き換わりました》