中古パソコンの管理者
伊吹野景澄のノートパソコンは、学校備品の払い下げ品だった。
角に管理番号の跡があり、起動にも少し時間がかかる。桑名瀬美玖は光る最新型を開き、毎日のように言った。
「それでプログラム組めるの? 動画を見るだけで止まりそう」
景澄は部品を交換し、同じ機械を五年使っていた。
校内ハッカソンで、美玖は高性能端末と有料AIサービスを並べた。景澄には、接続機器の片づけを任せる。
テーマは、災害時にも止まらない学校連絡網。開始直後、会場のインターネットが訓練用に遮断された。美玖のサービスはすべて使えなくなったが、景澄の中古端末だけが動き続けた。
彼は古い機器同士を直接つなぎ、校舎内だけでメッセージを回す仕組みを作っていた。
審査員として来ていた大手クラウド企業の社長が、その画面を見て笑った。
「家のデータセンターでも、同じ思想だったな」
伊吹野家は、国内最大級のクラウド・通信会社の創業家だった。景澄の父が社長、母が最高技術責任者。本人は役員の息子だと明かさず、廃棄予定端末を再生する研究チームへ参加していた。家でも最新機を毎年替えることは禁止され、壊れた部品を特定できるまで新品は与えられない方針だった。その倹約で減った電力と廃棄費は、地方の無料通信拠点を維持する資金へ回されている。
中古パソコンはただ古いのではない。景澄が設計した省電力基板を載せた試験機で、停電時でも二日間動く。自治体三百か所への導入契約が決まり、特許料は本人へ支払われる。
美玖は言った。
「でも、親の会社のサーバーを使ったんでしょ」
景澄は通信画面を示した。
「今、外とは切れてる。使ってるのは、この教室の廃棄機だけ」
一方、美玖の作品は、有料サービスの出力を自作と偽っていたことが利用履歴から判明し、審査対象外となった。
社長は景澄へ、災害通信事業の若手責任者証を渡した。
中古端末から校内全教室へ〈接続成功〉の通知が届いた瞬間、美玖が止まりそうと笑った一台が、最新機をすべて置き去りにして学校全体をつないだ。