二つの石碑の同じ一行
文乃が遺跡調査隊へ加わった日、王墓の扉には誰も読めない古代文字が刻まれていた。
扉の前には三本の石柱。学者たちは一文字ずつ推測し、半年かけて『黄金』『王』『眠り』らしき語を見つけた。しかし開門句だけが分からない。誤れば墓室が崩れる仕掛けだという。調査費は今月で尽き、今日開かなければ入口を埋め戻す命令まで届いていた。
「異世界の小娘に、我々の半年を越せるか」
主任学者が笑った。
文乃は扉だけを見なかった。遺跡入口に、同じ王の時代の境界石がある。片面は古代文字、反対面は後世の言葉で、内容はほぼ同じだった。学者たちは境界石を年代違いとして倉庫へ放置していたが、文乃にはそれが答え合わせの紙に見えた。
前世で対訳資料を扱っていた文乃は、二つの文章を行ごとに並べた。
どちらにも同じ位置で王名が出る。
次に数字の七。
最後に『膝をつくな』という後世語。
対応する古代文字へ線を引くと、扉の末尾にも同じ三語が並んでいた。王名、数字、命令の順も一致し、推測だった音が三つ同時に確定する。
『第七王の前で、膝をつくな』
主任学者は「王墓で立ったままなど不敬だ」と叫ぶ。これまで三度、皆で跪いて呪文を唱え、そのたび天井から砂が落ちていた。
文乃は一人、立ったまま扉の前へ進んだ。
王名を古代音で呼び、七を示す印へ触れ、膝を伸ばしたまま最後の一行を読む。
石の軋む音がした。
主任学者が止める声を上げたが、天井は落ちなかった。左右の扉がゆっくり開き、内側から乾いた空気と青い燐光が流れ出す。封印された宝物庫には、欠けのない歴史板が三百枚並んでいた。金より貴重な王朝年代記を見て、書記たちはその場で保存箱を運び始める。
半年で一語ずつだった解読が、二枚の石碑を揃えてから四十七分で開門句まで進んだ。
主任学者は震えながら「偶然の類似だ」と呟く。
調査隊長は境界石と扉の写しを重ねた。
「偶然は、同じ王名と数字と命令を同じ順に置かない」
彼は王墓の金鍵を文乃へ預けた。
「王立対訳解読官に任命する。三百枚の歴史も、対応する一行から読んでくれ」