二つの財布のウエハース

真鍋実莉は、洋菓子店「オリオン」で二色のクリームを挟んだウエハースを一つ選んだ。

片側は薄い緑のピスタチオ、もう片側は白いバニラ。境目は混ぜず、中央でまっすぐ分かれている。

来月、実莉は恋人と入籍する。昨夜、生活費をまとめやすいよう、給与口座も貯金も一つにしようと言われた。彼を疑ってはいない。それでも、自分で働いて貯めた金額まで「二人のもの」に変えることへ、うまく説明できない抵抗があった。母は結婚したとき自分の口座を閉じ、離婚後に通帳を作り直すところから始めた。その話を持ち出せば、彼を母の元夫と同じだと言うようで嫌だった。

店主はウエハースを細長い箱へ入れた。緑と白の境目が崩れないよう、中央へ薄い仕切りを立てる。

「一つのお菓子なのに、仕切るんですね」

「運ぶ間に、片方へ寄りますから」

店主は商品ラベルにも、ピスタチオとバニラの原材料を二段に分けて印字した。アレルギー表示は箱全体に一つだが、何がどちらに入っているかは分かる。

実莉は、結婚後の金を全部別にしたいわけではなかった。家賃や食費は一緒に払いたい。旅行のための貯金も二人でしたい。ただ、自分の口座まで空にして合流させる必要があるのか、と聞くことを避けていた。

会計で店主は、実莉が出した五千円札から代金を引き、釣り銭を紙幣と硬貨に分けて二つの窪みへ置いた。実莉はそれぞれを財布の別の場所へしまった。

店を出る前、恋人へメッセージを書く。

〈共同口座は作ろう。毎月決めた額を二人で入れたい。でも給与口座と今までの貯金は、それぞれ残したい。今夜、割合を相談しよう〉

拒絶ではなく、設計の話として送った。返事はまだ来ない。

家で箱を開けると、仕切りの両側で二色のクリームは形を保っていた。実莉は境目から半分に折るのではなく、端から一口かじった。緑と白が同時に舌へ触れる。

一緒に味わうことと、最初から全部を混ぜることは違う。その違いを、今夜は言葉にできそうだった。