二人だけの再生リスト
「眠れない夜にだけ、聴いて」
黒崎涼花は、宇佐美晴登へ音楽配信アプリの共有リストを送った。
仕事で落ち込んだ夜、晴登が眠れないと言ったのが始まりだった。涼花が静かな曲を一つ入れると、翌朝には晴登が明るい曲を返した。三年かけて、リストには二百曲以上が並んだ。
題名は《友達用・深夜》。
恋愛の歌を入れそうになると、涼花は別の曲へ変えた。晴登も同じらしく、愛を告げる歌だけが不自然に避けられていた。曲なら何でも伝えられるはずなのに、二人は友達という題名を守った。
晴登が追加した曲を涼花が通勤中に聴き、涼花の一曲を晴登が昼休みに再生する。離れた場所にいても、履歴だけは一日の隣に並んでいた。
晴登が有料契約を解約することになり、共同編集機能が今月で終わると知らされた。
「眠れるようになったから」
彼は笑った。最近、深夜の追加が減っていた。涼花は自分が必要なくなったのだと思い、「よかった」と返した。
最終日の夜、二人で最後の曲を選ぶため、駅前のベンチに座った。晴登は片方のイヤホンを涼花へ渡し、新しく作ったリストを再生する。
題名は《涼花と晴登》。
一曲目は、来月二人で行くライブの歌。画面には二枚の電子チケットが表示され、その次の週には夜景の見える店が予約されている。旧リストの全曲も、順番を変えず移されていた。
「解約するんじゃなかったの?」
「共同編集はやめる。会って選ぶから」
晴登はイヤホンのコードが絡まないよう、涼花の肩へ近づいた。そのままベンチの上で手を差し出す。
涼花は指を重ねた。晴登の手は、片方のイヤホンよりずっと確かな返事をした。恋愛の歌を一曲、新しいリストへ追加した。晴登もすぐ、その次へ同じ歌手の別の曲を入れる。
「これ、友達用じゃないよ」
「題名から消した」
名前を呼ばれ、涼花はライブの招待を承諾した。音楽が終わっても、手もイヤホンも返さない。
眠れない夜にだけ聴くリストだった。
眠れるようになった晴登が残したのは、夜を埋める音楽ではなく、昼間に会う二人の予定だった。