二十本の同じ深紅
人気の《夜葡萄紅》は、作るたび色が変わった。
先月は深い赤紫、今月は茶色。常連の侯爵夫人が片唇ずつ塗って怒鳴り、百本の契約を取り消した。工房主は天然顔料だから仕方ないと言い、色合わせ係ユージアへ全責任を負わせた。
前世で印刷会社の色管理をしていたユージアは、記憶で色を合わせなかった。最も評判の良かった一本から、退色しない陶板へ薄く標準色を残した。
作業台の光が日によって違うため、北窓の同じ位置に白い箱を置き、その中でだけ比較する。使う基準は一枚の深紅見本。それ以外は変えない。
ユージアは新しい紅を陶板へ一筋引き、見本の隣へ置いた。最初は黄みが強い。紫花顔料を一滴だけ足す。二度目は暗すぎるため、赤顔料をわずかに戻す。四度目、二本の境目が消えた。
工房主は人の目など当てにならないと笑った。そこで番号だけを付けた二十本を、夫人と侍女十人へ渡す。十九本はユージアの調整品、一つだけが評判の良かった原品だった。
誰も原品を当てられなかった。
白布へ二十本を引いても、一本の長い深紅線にしか見えない。唇へ塗った色も、朝の窓辺と夜の蝋燭下で同じ印象を保った。これまで一釜につき十二本出ていた色違い品は、百本中ゼロになった。
工房主は標準見本を隠そうとしたが、ユージアは同じ見本を三枚作り、金庫・調合室・検品台へ封印していた。誰か一人の勘では、もう色を変えられない。
侯爵夫人は取り消した契約書を拾い、百の数字を五百へ書き換えた。さらに友人たちの予約札が二百本分積まれる。
検品係は色違いを探すため一日かけていたが、標準見本と一筋ずつ比べれば百本を一刻で終えられた。返品処理台には、その日一枚の札も置かれない。工房主が「私の勘で最後に直す」と手を伸ばすと、夫人はその手から顔料匙を取り上げた。
工房主が口を開く前に、夫人はユージアへ直接、署名済みの注文書を差し出した。契約金の袋も、工房主の机を通さず彼女の検品台へ置かれる。
「夜葡萄紅七百本。色の最終承認者はあなたよ」