二行で消えた金貨

「同じ数字を二か所へ連動して書くだけ? 無能な写字生だ」

王国会計院の採用試験で、ゴルネは廊下へ出された。

【固有技能:《双記》――二つの欄へ同時に書いた同じ数は、片方が書き換えられるともう片方も同じ数へ変わる】

金を増やすことも、嘘そのものを見抜くこともない。国王サイラムは会計官の説明を信じ、「帳簿は一冊で足りる」と言った。

その月、軍馬購入費から金貨一万枚が消えた。主計官は「千頭を追加購入した」と帳簿を示す。厩舎には三千頭、支払記録にも三千頭分。数字は合っており、不正の証拠はない。兵は冬用の外套を減らされ、国王は増税を迫られていたが、帳尻が合う限り主計官を裁けない。従来の帳簿は、金が出た理由だけを記し、代わりに何が入ったかを見ていなかった。出金と入庫を別々の役人が管理する隙間へ、金貨は落ちたのだ。

ゴルネは新しい帳簿を二列に分けた。左は現金の出入り、右は受け取った物。馬を一頭買えば、左に代金、右に馬一頭。《双記》で金額と数量の対応を結び、取引ごとに二方向から記録する。前世で学んだ複式簿記だった。

過去の伝票を一枚ずつ移すと、ある日だけ異常が出た。主計官が左の支払額を後から増やしたため、連動した右欄では「馬四千頭」と変わる。だが厩舎の飼料、蹄鉄、獣医記録は三千頭分しかない。

「技能のせいで数字が狂った」と主計官は叫んだ。

ゴルネは四千頭なら必要な飼料量を別の双記欄へ写した。倉庫に存在しない十万袋が帳簿上へ現れる。嘘を一つ合わせるたび、別の現実が合わなくなる。

衛兵が主計官の屋敷を捜すと、床下から金貨一万枚が出た。

サイラムは二列の帳簿をめくった。

「数字を二度書けば、仕事も二倍になると思っていた」

ゴルネは首を振る。

「同じ取引を、金と物の両側から一度ずつ見るだけです。片目を閉じなければ、金貨は消えません」

国王は会計院長の印章を外し、ゴルネへ渡した。

「無能な写字生ではない。おまえの二行は、私の一万枚より重い」