二重生活監査

【東雲機材株式会社 内部監査面談記録】

監査役・蜂須賀:

稙田兆平さん。扶養申請に「配偶者・志緒里」、緊急連絡先に「妻・梨名」とあります。説明してください。

兆平:

どちらも間違いではありません。

蜂須賀:

重婚を認めますか。

兆平:

重いのは認めます。

蜂須賀:

言葉遊びは不要です。月曜から木曜は志緒里さん宅、金曜から日曜は梨名さん宅へ帰っている。

兆平:

はい。

蜂須賀:

二つの家に、同じ柄のパジャマまで置いている。

兆平:

移動のたび持つと重いので。

蜂須賀:

誕生日も二回祝っている。

兆平:

どちらも大事な日です。

蜂須賀:

結婚記念日は?

兆平:

三月十一日と九月二日。

蜂須賀:

完全な二重生活ですね。

兆平:

だから重いと言いました。

蜂須賀:

お二人には互いの存在を?

兆平:

知っています。

蜂須賀:

合意の上?

兆平:

僕以外は。

蜂須賀:

あなたが知らされていない?

兆平:

先月まで、志緒里が実家に帰ると言うので送ったら、梨名の家でした。

蜂須賀:

では二人の関係は。

兆平:

姉妹です。

蜂須賀:

姉妹それぞれと結婚?

兆平:

志緒里が妻。梨名は妻の母です。

蜂須賀:

緊急連絡先に「妻」と。

兆平:

記入欄が狭くて「妻の母」が途中で切れました。

蜂須賀:

金曜から日曜まで義母宅に泊まる理由は?

兆平:

義母が骨折したので、夫婦で介護しています。月曜から木曜は自宅。

蜂須賀:

同じ柄のパジャマは。

兆平:

義母が安売りで二着買いました。

蜂須賀:

誕生日二回。

兆平:

妻と義母。

蜂須賀:

結婚記念日が二つ。

兆平:

三月十一日は入籍日、九月二日は式の日。

蜂須賀:

……では、不正な二重生活ではない。

兆平:

ただ、二つの家庭で同時に家事を命じられています。

蜂須賀:

監査対象外です。

兆平:

助けてください。

蜂須賀:

最後に確認を。義母の梨名さんは、なぜあなたを「うちの人」と呼ぶのです?

兆平:

家事ができる唯一の男だからです。

 面談室の扉が開き、志緒里と梨名が同時に顔を出した。

「兆平、面談終わった? 今夜は両方の家の換気扇掃除よ」

 監査役は記録の結論欄へ書いた。

『二重生活は事実。ただし被害者は本人』。