五脚目の椅子
塩谷真珠は、空の五脚目へ鉄球を置いた。
椅子の圧力灯が点き、彼女は肘掛けの白ボタンを押す。続いて自分の席へ戻り、同じ白を押した。
四人の参加者に対し、投票椅子は五脚あった。第五席には《観察》と刻まれ、誰も座っていない。
開始前、真珠が第五席の肘掛けへ触れると、白黒のボタンは他の四席と同じように点滅した。主催者は「余計な場所に触るな」とだけ言い、無効とは言わなかった。その焦りが、使える一票だと教えた。
壁の規則はこうだ。
《五席のうち過半数が同じ扉を選んだ場合、その扉を選んだ参加者を解放する》
羽鳥賢吾と諏訪部梨々は黒。真珠と茅場冬樹は白。
本来なら二対二で、五席の過半数である三票へ届かず、全員の首輪が作動する。
「空席は投票できない!」
賢吾が立ち上がる。
だが第五席の白灯は消えない。真珠が置いた鉄球は、足枷につながれていた重りだ。入室直後に鎖を外し、足元へ隠していた。
白、第一席。
白、第四席。
白、第五席。
無人の第五席から投じられた信号にも、他と同じ一票の番号が付いていた。
三席。五席の過半数。
《白扉を開放します》
第五席の背もたれにも、生存を示す緑灯だけが虚しく点いた。
梨々が叫ぶ。「一人で二票を押した!」
「規則は一人一票じゃない。投票者を数えてもいない。五つの『席』がどの扉を選んだかを数える」
主催者の声が割り込む。
《第五席は観察者用であり、参加者の投票席ではない》
「だったら規則を『四つの参加者席』と書くべきだった。圧力灯も投票ボタンも生きている。飾りの椅子なら、過半数の母数を五席にした理由がない」
冬樹は白い扉へ駆け込む。真珠も続く。黒席二人の首輪が赤へ変わった。
賢吾は最後まで第五席の鉄球を睨んだ。
「そんなものを置くために、足枷を壊していたのか」
「違う。五脚あると気づいたから、壊す価値が生まれた」
真珠は白扉の内側から鉄球を見た。誰も座っていない椅子が、誰より重い一票を投じている。
「人間が四人だから四票。その思い込みが、最初の拘束具だったのよ」