交代しなかった英雄候補
競技参謀ケリオンが王立闘技団を追放された翌日、英雄候補バルフレアは三試合すべてに出場した。
第一試合は一撃で勝った。第二試合も勝った。
観客が名を叫ぶ中、第三試合の開始鐘が鳴る。
バルフレアは最初の踏み込みで膝をついた。
傷はない。だが第一試合で使った加速術が脚の魔力を奪い、第二試合の大盾受けで腰の筋肉が硬直していた。剣を上げたまま立てず、無名の対戦相手に肩を押されただけで場外へ落ちた。
「本人が出ると言ったんだ!」
団長は叫んだ。
昨日まで、ケリオンが止めていた。呼吸数、握力、靴底の減りを見て、本人が戦えると言っても交代札を出す。人気選手を休ませるたび、団長は客受けを分からない地味男と罵った。
彼がいなくなった最初の日、闘技団は優勝だけでなく、英雄候補の次季出場資格まで失った。
診察した治癒師は、膝の魔力管が裂けていると告げた。治るまで三月、無理をすれば二度と加速術を使えない。観客を喜ばせるため休ませなかった結果、闘技団は最も人気のある選手を次の大会すべてで失った。
控え選手たちは、ケリオンが自分たちを短時間だけ出していた理由も理解した。主役を休ませるためだけではない。誰かが倒れた時、舞台へ立った経験のある者を残すためだった。団長は英雄一人を売り出し、参謀は団全体を戦える状態にしていた。
同じ頃、ケリオンは地方学院の弱小闘技部で、五人の選手へ交代札を配っていた。
「勝てる人を出し続けるのではなく、勝てる状態の人を出します」
一勝一敗で迎えた決定戦。温存されていた一年生が、疲れ切った名門校の主将から一本を取った。学院初の地区優勝だった。
監督イオナスは、金杯より先にケリオンへ首席戦術官の腕輪を渡した。
「選手を信じることと、選手の無理を信じることは違うんだな」
表彰式の最中、王立闘技団の急使が来た。治療計画を作れば復帰させ、今度は交代権を全て与えるという。
ケリオンは優勝札の裏へ短く返した。
「王立闘技団との戦術契約は、昨日の除名で終了しています」