仕立て屋は茨猪の毛をほどく
王宮庭園には、銀色の巻き毛を持つ茨猪ポルカがいた。
花壇を守る聖獣だが、人を見ると突進するため、庭師も近寄れない。春の園遊会を前に「危険だから森へ捨てよ」と命が下った。
衣装仕立て屋のペトラは、王女の裾直しで庭を横切り、茨猪と出くわした。
護衛は王女を連れて逃げ、ペトラだけが芝生へ取り残される。ポルカは鼻息を荒くし、頭を低くした。
だが突進してこない。前へ出ようとしては、尻の方を振り返っている。
銀の巻き毛には、庭園の薔薇蔓が何重にも絡み、鋭い棘が皮膚へ刺さっていた。走れば走るほど引きつり、痛みで人を追っていたのだ。
「その毛、切りたくないですよね」
王女の衣装より見事な巻き毛だった。ペトラは裁ち鋏をしまい、縫い針と糸切りだけを出す。
まず自分の髪に絡んだ糸を、引っ張らず一本ずつほどいてみせた。ポルカは地面を掻いたが、逃げない。
「少し時間をください。園遊会より、あなたの皮膚が先です」
背後へ回るのは危険だったので、ペトラは横へ座り、見える範囲から蔓を短く切った。棘の方向を確かめ、毛を押さえ、逆向きに抜く。一本取れるたび、ポルカの鼻息が静かになる。
最後の太い棘は尻尾の付け根に刺さっていた。抜いた瞬間、茨猪は驚くほど高い声で鳴き、芝生へ転がった。
銀毛の腹を丸出しにして、短い足を空へ向ける。ペトラが笑いながら腹を撫でると、巻き毛の間に薔薇形の契約印が浮かんだ。
王女は捨てる命令を撤回し、ペトラへ王獣衣装師の地位を与えた。園遊会では、ポルカの毛を飾る代わりに棘のない青いリボンを一本だけ結ぶ。
銀毛と青いリボンはたちまち宮廷で流行したが、ペトラはきつい飾り結びをすべて断った。「可愛いことと苦しくないことは両立します」と王女にも譲らない。ポルカは試着のたび鏡より先にペトラの顔を見て、許可が出た時だけ得意そうに庭を一周した。
式が終わると茨猪はペトラの膝へ鼻面を押し込み、動かなくなった。銀の巻き毛は焼きたてのパンのように温かく、丸い身体の重さが笑ってしまうほど素直にのしかかった。