休憩中の表示

火曜の午後十一時、枝里はアプリの設定画面で、〈プロフィールを休憩中にする〉という項目を見つけた。

説明には、休憩中は新しい相手に表示されにくくなり、現在のマッチとの会話は続けられる、とある。

その下に〈出会いの機会が減る可能性があります〉と赤い文字があった。

枝里は三か月、ほぼ毎日アプリを開いていた。帰りの電車でプロフィールを見て、夕飯のあとに返信し、日曜には誰かと会う。会って悪くなかった人も、合わなかった人もいる。嫌な目に遭ったわけではない。それでも最近、通知が来るたび、仕事を一件追加されたように感じていた。

今夜も二人からメッセージが届いている。一人は週末の予定を聞き、もう一人は好きな食べ物を聞いている。どちらも普通の質問だ。普通に答えるには、普通以上の元気が要った。

テーブルには、帰宅途中に買った春雨サラダがある。透明な蓋の内側に水滴がつき、きゅうりは冷えすぎて硬い。レシートの下には、来月の電気料金のお知らせが重なっている。洗濯機は終了音を鳴らしたのに、枝里はまだソファから立てなかった。

休憩を押せば、その間に良い人がアプリをやめるかもしれない。表示順位が下がるかもしれない。二十九歳の一週間は、二十五歳の一週間より大事だと書いた記事を、以前読んだことがある。

枝里はカレンダーを開き、一週間後の日付を見た。たった七日なのに、機会を失うには長く、自分を休ませるには短く感じた。

〈休憩中にする〉を押す。

プロフィールの上に灰色の帯がついた。退会したわけではなく、恋愛を諦めたわけでもない。ただ、今夜から七日間、知らない人の期待に応える係を休む。

枝里は届いている二人へ、〈今週少し立て込んでいるので、返事ゆっくりになります〉とだけ送った。本当は立て込んでいるのではなく、空っぽに近かった。説明はそれ以上しなくていいことにした。

春雨サラダを食べ、洗濯機の蓋を開ける。全部干すのは面倒で、明日着るブラウスと下着だけ取り出した。

七日後の自分が再開するかは、まだ決めない。今日は灰色の「休憩中」を、遅れている印ではなく、休んでいる印として見てよかった。