休憩室の剣

保科蘭は、全長百四十センチの剣を抱えて出社した。

土曜出勤のあと、そのまま地方へ移動し、日曜のイベントへ直行するためだった。自宅へ取りに戻れば新幹線に間に合わない。刃は柔らかい発泡材で、芯も細い樹脂棒。安全規定に合わせて作ったが、銀色に塗装した見た目だけは本物らしい。

布袋の口から柄が出ていたため、通用口の警備員が止めた。

「社内へ武器は持ち込めません」

「武器ではなく、衣装小道具です」

蘭は袋の上から刃を曲げようとしたが、かえって怪しく見えた。説明するほど、後ろの社員が集まってくる。普段の蘭はデータ入力担当で、昼休みも画面から目を離さず、雑談でも声を張ることがない。背中より大きな剣を持つ理由など、誰も想像していなかった。

警備責任者と総務課長まで来た。

蘭は袋から剣を出し、刃を両手で曲げて見せた。ぐにゃりと弧を描き、見物人から声が上がる。

「先端は?」

総務課長が尋ねる。

蘭はゴム製の先を外した。

「接着ではなく差し込みです。会場の規定で、半径二センチ以上。芯はここまでしか入っていません」

塗料の種類、重量、接合部の補強まで、自分でも驚くほど滑らかに答えられた。好きなものの安全性なら、仕事の報告より堂々と説明できる。

課長は刃を軽く押し、警備員へ言った。

「休憩室の施錠棚で保管。移動時は袋に入れる。入館記録へ小道具と記載」

そして蘭へ向き直る。

「次回は事前申請を。品質はよくできています」

昼休み、噂を聞いた同僚が休憩室へ来た。

「保科さん、本当に剣を使うの?」

蘭は施錠棚を開けた。

事前申請をせず、隠すように持ち込んだことは反省していた。だが、剣を作ったことまで小さくする必要はない。

「週末、竜騎士になります」

「写真ある?」

「今日撮るので、月曜なら」

退社時、警備員は袋の札を確認し、剣を返した。

札には《安全確認済・保科》とある。蘭はそれを剥がさず、肩に担いだ。会社から持ち出す危険物ではなく、きちんと説明した自分の装備になっていた。