会社より先の請求書
銀行の売掛債権担保融資会議で、春日井透は企業調査部の若手補助として、ロボット開発会社の請求書を照合していた。新設商社へ制御装置百台を売り、売掛金六億円を得たという。
請求書の日付は五月十日。買い手の社印と代表署名があり、支払期日は六月末だった。
透は商業登記を机に置いた。買い手会社の設立日は五月十四日。請求書の日には、会社そのものが存在しない。
開発会社社長は、設立前の発起人と契約したと説明した。
しかし請求書の宛名には、五月十四日に付与された法人番号が記載されている。五月十日に知ることはできない。買い手の社印も届出日が五月十五日で、四日早い請求書に押されていた。
製品百台の出荷記録もなかった。製造番号はR8001からR8100だが、工場台帳はR8032まで。残り六十八台はまだ設計変更中だった。
入金予定を裏付ける残高確認書には、買い手口座に六億円あると記載されている。銀行照会すると残高は六十万円。書面で「0」が三つ追加され、QRコードの検査数字も合わなくなっていた。
融資部長は、社長個人との契約を法人が追認すれば成立すると述べた。透は追認決議を求めた。出てきた議事録の署名時刻は五月十三日、会社設立の前日だった。
社長は、資金が出なければ本当に百台を作れないと訴えた。
透は請求書の発行番号を指した。
「作るための融資を、もう売った百台の代金では借りられません」
透は買い手会社の銀行口座開設日も確認した。五月十六日で、請求書発行時には振込口座すらない。代表署名は、開発会社社長が以前受け取った個人保証書から複写され、署名の下に元文書の罫線が薄く残っていた。
買い手会社の代表者へ電話すると、開発会社から名義を貸してほしいと頼まれただけで、装置を見たこともないと認めた。
銀行役員が六億円の融資印をケースへ戻した。会社より四日早い請求書は、設立日を越えて担保になれなかった。