停電しない町

台風で周辺一帯が停電した夜、海坂町だけは診療所も給水所も動き続けた。

翌日の報告会で、野々村恭成事業部長は町長や報道陣を前に語った。

「地域マイクログリッドは、私が非常時を想定して設計しました」

榛原遼成は配電盤の横で黙っていた。診療所、井戸、避難所の優先順位を住民と決め、古い漁船の蓄電池まで系統へ組み込んだのは遼成だ。野々村は「採算にならない」と会議から外していた。停電が起きる前月には、維持費削減を理由に蓄電池を売却しろとまで命じている。成功後、報告書の責任者だけを自分へ替えた。

牧瀬和泉町長が、停電時の記録を示した。

「野々村さん。中学校だけ、一度明かりが消えています。設計ミスですか」

「需要予測の誤差でしょう。次回は容量を増やします」

「体育館には二百人が避難していました」

報道陣がざわつく。

遼成は町長に促され、配電図を開いた。消したのは校舎棟だけで、体育館の照明と空調は独立電源で維持した。校舎を三分切り、余った電力を井戸ポンプへ回したことで、高台の貯水槽を満水にできた。容量不足ではない。夜明け前に土砂崩れで水道管が切れる予測が出たため、電気より水を先に蓄えたのだ。

和泉はペットボトルの水を机へ置いた。

「昨日、町民が飲めた水です」

野々村は慌てて頷いた。

「そうした現場判断ができるよう、私が榛原を育てました」

和泉は分厚い住民協議録を開いた。全二十六回、出席者欄には遼成の名がある。野々村の名はゼロ。代わりに、計画縮小を求める社内メールが添付されていた。

「町が信頼したのは、毎晩ここへ来た榛原さんです。あなたの名刺ではありません」

近隣七自治体との共同導入契約が提示された。総額六十億円。条件は遼成を統括責任者とし、野々村を意思決定から外すことだった。

社長が即座に承認し、配電盤の管理鍵を遼成へ渡した。

遼成が鍵を回すと、隣町へ延びる新しい系統図に緑の灯がともった。野々村の席だけが暗いまま、七つの町の契約が一斉に点灯した。