働くふりの家族

斑目玄蕃の家では、夕食になると家族が今日の成果を報告した。

壁面AIは、その日の歩数や会話量から架空の業績グラフまで作った。家族は数字を見せ合い、誰が一番忙しかったか競った。暇だと言えば、存在価値まで低く見える気がしたからだ。玄蕃は毎朝ネクタイを締め、無人の移動車で町を一周してから帰った。帰宅すると本当に疲れていた。

母は「企画会議が長引いた」、姉は「新規案件を獲得した」、玄蕃は「出張で疲れた」と言う。もちろん、誰にも仕事はない。百年前の家庭ドラマを真似て始めた遊びが、いつしか本気になっていた。役に立つ人間のふりをしなければ、食卓で話すことがなかったのだ。

十歳の娘だけが、成果を持ってこなかった。

「今日は何もしなかった」

「それじゃ会話が続かないだろ」と玄蕃は叱った。

「お父さんも何もしてないのに?」

翌朝、娘は玄蕃の「出勤」を尾行した。

娘を叱った夜、玄蕃は眠れなかった。何もしなかったと正直に言える娘が、家族で一番勇気があるのかもしれない。翌朝もネクタイを締めたが、いつもの周回をやめた。行き先を決めず歩いた末、祖父との記憶が残る駅へ着いたのだった。

玄蕃は空の移動車に乗らず、廃止された地下駅へ向かった。そこで箒を取り、誰も使わないホームを掃いた。壁の落書きを消し、止まった時計の埃を払った。

「仕事してたの?」

見つかった玄蕃は慌てた。

「違う。ここはもう使われない。誰にも頼まれてない」

「じゃあ、どうして?」

玄蕃は答えられなかった。若い頃、祖父と最後に乗った駅だった。汚れて消えていくのが嫌だっただけだ。

娘は小さな箒を拾った。二人で一時間掃くと、ホームは相変わらず古く、列車も来なかった。それでも帰宅した玄蕃は、いつもの出張話をやめた。

「今日は娘と、駅を少しきれいにした」

母は黙り、姉はうらやましそうにした。

「明日、私も行っていい?」

母は切符売り場に昔の写真を飾り、姉は利用者の思い出を聞き取った。娘は毎回途中で飽きて遊び始めた。玄蕃は以前なら集中力不足と叱っただろう。今は、やめる自由のない作業は、また別の嘘になると思った。

家族の成果報告は、翌週から作業相談に変わった。駅に花を置くか、昔の時刻表を残すか、意見が割れて喧嘩もした。

玄蕃はもう、忙しいふりをしない。

誰にも必要とされない場所を家族で守ることが、嘘の肩書よりずっと話題を増やしたからだ。