優しいリーク

匿名アカウント「会議室B」が、聡美へのパワハラを告発した。

怒鳴る上司の音声、深夜のメール、破られた企画書。私は同僚として、彼女を守るため資料をまとめた。

聡美は入社以来、評価だけが低かった。会議で発言すると遮られ、私が同じ案を言えば採用された。だから彼女が匿名で戦うことを、卑怯だとは思わなかった。むしろ名前を出せない弱い立場こそ、私が補うべきだと思った。

聡美は録音の冒頭を必ず切って渡した。波形が不自然でも、怒鳴り声を何度も聞かせるのはつらいからだと説明した。

「前の部分は関係ないから」

ファイル名も私の社員番号で統一してほしいと言った。内部告発者が特定されないためだという。私は疑わなかった。

投稿が拡散され、上司は自宅待機になった。彼の説明を求める声は〈加害者の言い訳〉として消された。聡美は会議室で震えながら、「穂乃香がいてくれなかったら耐えられなかった」と言った。

調査担当から、元データの提出を求められた。聡美は体調不良で休み、代わりに私へ提出を頼んだ。フォルダの鍵も、彼女が以前から使っていた私の誕生日だった。信頼の証だと思いながら、私は共有フォルダを開いた。画面の隅では、匿名アカウントの予約投稿が一件、送信待ちになっていた。

切られる前の音声には、聡美が上司の家族を侮辱し、机の書類を捨てる音が入っていた。深夜メールは、彼女が予約送信したものへの返信。破られた企画書は、別の社員の案を盗用した証拠だった。

「会議室B」には、同僚の病歴や給与まで下書きされていた。

「これも出すつもりだったの?」

「会社を変えるには、悪者が必要でしょ」

「私の番号を使ったのは」

「穂乃香なら疑われても、私を守ってくれると思った」

聡美は私を信頼していた。それが嬉しかった自分を、すぐには否定できなかった。

翌朝、「会議室B」に新しい告発が出た。

〈捏造音声を作った社員がいる〉

添付された編集履歴では、作成者の欄だけが丁寧に残されていた。

そこに表示されていたのは、私の社員番号だった。