充電台の前の五分

犬型ロボットは、夜九時になると自動で充電台へ戻った。

子どもが遊びたがっても、残量二十パーセント以下なら命令を受け付けない。

子どもは毎晩、充電台の前までついていった。

頭を撫で、古いタオルを毛布のように掛け、

「おやすみ」

と言う。

ロボットは青い目を消し、充電を始めた。

ある夜、子どもは友達と喧嘩し、夕食も食べずに寝た。

犬型ロボットは九時に充電台へ戻ったが、接続しなかった。

残量が一パーセントになっても、子どもの部屋の前で待った。

母親が運んでも、また戻る。

「おやすみ」を聞くまで充電を始めなくなったのだ。

母親は子どもを起こした。

子どもは眠そうに扉を開け、ロボットへ言った。

「今日は最悪だった」

機械は首を傾けた。

「でも、おやすみ」

青い目が一度瞬き、充電台へ歩いた。

その後、子どもは入院した。

検査が長引き、家へ帰れない日が続く。

犬型ロボットは毎晩、部屋の前で待ち、充電切れを起こした。

父親は映像通話をつないだ。

画面の向こうで子どもが、

「おやすみ」

と言うと、ロボットは充電を始めた。

それが病室の消灯前の日課になった。

子どもは犬型ロボットへ学校の話や、注射が嫌だったことを話した。

機械は返事をせず、最後の言葉だけを待つ。

母親と父親も、画面の両側で一日を終える準備ができた。

退院の日、子どもは杖をついて家へ入った。

ロボットは廊下を走ろうとして、転倒防止設定に止められた。

代わりに尻尾のランプを激しく点滅させた。

夜九時、子どもは充電台の前に座った。

「今日から画面じゃないね」

ロボットの頭へタオルを掛ける。

「おやすみ」

機械は充電台へ接続せず、子どもの膝へ頭を載せた。

五分だけその姿勢を続けたあと、自分から戻った。

仕様書に、充電開始を五分遅らせる機能はない。

それでも毎晩、ロボットは「おやすみ」のあと五分だけ子どものそばにいるようになった。

成長した子どもは、やがて一人で寝ることを恥ずかしがらなくなった。

友達との外泊で家を空ける夜も増えた。

ロボットは母親の「おやすみ」でも充電するようになった。

ただ、久しぶりに帰宅した夜は、必ず五分待つ。

犬の心が本当にあるかは分からない。

けれど帰ってきた人の一日を、すぐ電源の外へ置かず、少しだけ膝の上で受け取ることはできた。