写真の外へ

羽鳥清良の結婚式には、カメラが十四台あった。

宮坂綾音はその半分を手配した。フォトグラファーとして、清良の小さな店を何度も撮り、二人の婚約動画も作った。写真は残してこそ価値がある、と信じている。

だから清良が披露宴前に姿を消し、「全部止めて」とメッセージを送ってきたとき、綾音は最初、緊張しているだけだと思った。

清良は地下の搬入口にいた。ドレスの上へ清掃員の上着を借り、壁に背をつけている。

新郎は、式の費用を賄うために動画配信会社と契約していた。挙式、控室、二人だけの誓いの手紙まで、編集して広告付きで公開する。清良はダイジェスト映像だけだと聞いていた。契約書には今日初めて見る署名欄があり、新郎が代理でサインしていた。

「控室にも?」

「固定カメラがあった」

着替えの時間は録画しない設定だとスタッフは言ったが、清良は確認できていない。

綾音は、写真嫌いの清良を何度もレンズの前へ連れ出した。撮られた自分を好きになることもある、と知っているからだ。けれど、好きになる可能性は、撮る許可にはならない。

二人は会場へ戻らず、機材管理室へ向かった。綾音は撮影責任者の腕章を見せ、全カメラの収録停止と記録媒体の封印を求めた。契約担当者が新郎の許可を確認しようとすると、清良が自分で「被写体本人として同意を撤回します」と言った。

カメラの赤いランプが一台ずつ消える。綾音は番号を読み上げ、清良が一覧表へ線を引く。十四番まで終わると、控室のカードも回収された。

すでに撮影したデータは、その場で削除せず、第三者立ち会いのもと確認することにした。証拠まで消してはいけないと綾音が判断した。清良は納得し、メモリーカードを封筒へ入れる作業を手伝った。

「私、写真は残したいと思う」

綾音が言う。

「私は、今は見たくない」

「うん。だから封をする」

二人はカードを一枚ずつ数え、封筒の左右を同時に押さえた。清良が署名し、綾音が時刻を書く。

式の中止が伝わり、廊下のフォトブースだけが空しく光っていた。二人はそこを通るとき、置かれていた席札をカメラのレンズへ立てかけた。

清良の姿も、綾音の姿も、モニターから消えた。

写真の外で、二人は同じエレベーターの下降ボタンを押した。