処刑人を処刑する日
レメラは、自分の斧の前へ跪いた。
三日前、無実の囚人を逃がした罪で死刑を言い渡された。執行役は弟子のソウド。まだ十七歳で、斧を握る指が震えている。
処刑斧には継承の呪いがある。持ち主をその斧で殺した者は、処刑人の技と記憶をすべて受け継ぐ。斬った首の重さ、泣き声、判決への疑いまで、一瞬で流れ込む。その代わり、新しい持ち主自身の記憶は半分押し出される。
だから老いた処刑人は、弟子に自分を斬らせて役目を継がせる。
「師匠、逃げてください」とソウドが囁く。
「兵が十人いる」
「俺が止める」
「お前が死ねば、斧は別の者へ渡る」
見届け台には大審問官が座っている。レメラが逃がした囚人は、彼が密かに人を魔物へ変える実験をしていると告発した。証拠は処刑人の記憶の中にある。地下室を見た夜、薬瓶の印、檻の子供たち。だが口で訴えても握り潰された。
斧の呪いなら、記憶を弟子へ渡せる。
「私を斬れ。受け取ったら、鐘を見ろ」
ソウドは泣きながら首を振る。
「命令だ」
「もう師匠は処刑人じゃない」
「なら頼みだ」
斧が上がる。レメラは石へ額をつけ、弟子が幼い頃から何度も教えた呼吸を聞いた。吸う。止める。迷いを刃先ではなく踵へ逃がす。
振り下ろされた瞬間、痛みはなかった。
ソウドの中へ百人以上の最期が雪崩れ込む。レメラの幼年、最初の処刑、地下室で見た実験。代わりに、ソウドの母の顔、故郷の川、初恋の声が白く消えた。
彼は斧を落とさず、処刑台の鐘へ投げた。
鐘面に隠されていた記憶映しの術が割れ、レメラの記憶が空へ広がる。檻の子供たちと大審問官の姿が、群衆全員の目に映った。
兵が見届け台へ向きを変える。大審問官は逃げたが、門で捕らえられた。
静かになった処刑台で、ソウドは師の首を抱き上げた。
「師匠」と呼んだ声は、レメラの声だった。
自分の名前を思い出そうとする。二音目が出てこない。鏡代わりの刃には、十七歳の顔と四十七歳の瞳が映る。
群衆が新しい処刑人の名を尋ねた。
彼は長く迷い、「レメラ」と答えた。それが死者の名だと、もう半分しか覚えていなかった。