匂いを消せない狩人

狩猟団〈赤角〉で、支援魔術師コルミの役目は匂いを薄めることだった。

血の臭いも、汗も、革鎧の油も、風下へ流れる前に土の匂いへ混ぜる。

団長バシュは大牙猪の討伐前日、彼女を追放した。

「獲物は目と耳で追う。鼻を相手に小細工するだけの者へ分け前は出せん」

翌朝、赤角は森へ入った。

足跡は新しく、枝には泥が付いている。弓を構え、風上から谷へ近づいた、その瞬間だった。

谷の奥で一頭の大牙猪が顔を上げた。

続いて二頭、三頭。狩人の姿は茂みに隠れていたのに、全頭の鼻が同じ方向へ向く。昨夜塗った防水油と、緊張で流れた汗が、谷風に乗っていた。

「まだ見つかっていない。動くな」

バシュが囁いた直後、大牙猪たちは一斉に突進した。

赤角は罠を仕掛ける前に逃げ出した。

背負い袋を捨て、弓を捨て、最後には討伐証明用の檻まで捨てた。最初の獲物へ一本も矢を放てないまま、森の外まで追い立てられた。

捨てた背負い袋には食料と討伐許可証が入っていた。取り戻しに戻ろうにも、今度は猪だけでなく狼まで食料の匂いへ集まっている。赤角は獲物を狩るどころか、許可証紛失の罰金と借り物の檻の弁償を同時に負った。バシュの外套には、逃げる途中で裂けた大きな穴が残った。

老狩人が息を切らして言う。

「俺たちが忍び足だったんじゃない。コルミが、森に人間の匂いを残さなかったんだ」

同じころコルミは、森林監視隊と密猟者の野営跡へ近づいていた。

五人の隊員の匂いを苔へ混ぜると、見張り犬は鼻先を地面へ付けたまま、彼らの横を通り過ぎた。隊長レヘナは密猟罠を回収し、銀の隊章を渡した。

「獲物を殺さず近づける術は、森を守る側にこそ必要だ」

回収した罠からは、まだ生きている子狐が一匹見つかった。コルミが人の匂いを消した布で包むと、親狐は森の縁まで迎えに来た。監視隊員たちは矢を一本も使わず任務を終えたことを、討伐数より誇った。

コルミは正式な隠密支援官となった。

夕方、牙で裂けた外套のバシュが監視所へ来た。

「分け前は二倍だ。赤角へ戻れ。今度はお前の名も討伐札に書く」

コルミは銀の隊章を留めた。

「赤角狩猟団との支援契約は、追放を告げられた日に終了しています」