匂いを閉じる線

香辛料商会の倉庫では、すべてが同じ匂いになった。

高価な月桂茶は胡椒臭くなり、甘い乾燥果実には燻製粉の煙が移る。布袋の口を何重に縛っても、客が開ければ顔をしかめた。

「香りが混じるのは倉庫なら当たり前だ」

番頭は凪の苦情を退けた。

凪は蝋を薄く引いた紙袋へ香辛料を入れ、口を平らに重ねた。その上から温めた鉄棒を一度滑らせる。蝋が溶け、冷えると袋の口が一本の線で閉じた。

糸も結び目もない。空気の通る隙間もない。

一週間前から用意した試験袋を、交易組合の査定人の前で開けた。胡椒の袋を裂くと、鋭い香りが鼻を刺す。隣に置いていた月桂茶の袋を開けると、柔らかな花の匂いだけが立った。

外見の同じ布袋で保管した茶は、胡椒と燻煙が混じり、査定額が半分になった。

査定人は密封袋の茶を湯へ落とした。金色の湯気を吸い込み、目を細める。

「一等品のままだ」

さらに袋を水へ半分沈めた。五分後に開いても、中の粉はさらさらで固まっていない。輸送中の雨にも耐えられる。

査定人は袋を馬車の荷台へ置き、石畳を一周させた。結び目がないため他の袋へ引っ掛からず、口から粉も漏れない。戻った荷台には胡椒一粒落ちていなかった。

包装時間も一袋四十秒。布袋を縛り、外布を重ねる旧式は三分かかった。十人が一日で包める数は百六十から七百二十へ増える。それでも使う技術は、熱い棒で口を一本閉じるだけだった。

開封跡は裂け目として残るため、途中で中身を抜かれた袋もすぐ分かる。商隊長が黙って自分の封蝋箱を引っ込めた。

番頭は袋代が高いと食い下がった。凪は数字を示す。一袋の追加費用は銅貨二枚。香り移りによる値下げは銀貨八枚。百袋なら損失差は四百倍だった。

その場で査定人が月桂茶三百袋を最高値で買い付けた。倉庫に積まれていた売れ残りが、密封し直すだけで商品へ戻る。

商会主は番頭から倉庫鍵を取り上げ、凪へ渡した。

「この封じ線を全商品に使う。袋十万枚と、包装工程の監督を君に注文する」

熱い鉄棒が次の袋を走り、香りを中へ閉じ込めた。