包み紙の斜線
菓子工場の夜勤で、チョコレートの包み紙が斜めに閉じるようになった。冬季限定品の初回出荷は朝。藤代杏が包装室へ入ると、主任はタイミングベルトの張りを強くしていた。
「温まるとずれる。ベルトが伸びるんだ」
杏は機械が冷えた状態から十個ずつ包ませた。最初の二十個は正常で、三十個目から右端が遅れ始める。タイミングベルトに印を付けても、歯飛びはない。ずれは包装紙を引く側ではなく、最後に挟む動作だけで増えていた。
彼女はシール刃を動かすカムフォロアへ温度計を向けた。片側だけ高い。回転する小さな軸受が傷み、熱を持つほど固くなって、刃の右側を一瞬遅らせていた。
主任は油を差して朝まで持たせようとした。杏は止めた。食品の近くへ指定外の油を使えないうえ、固着した軸受が急に砕ければ、金属片が製品へ落ちる。ベルトを強く張る案も、遅れを一時的に押し切るだけで、別の軸を曲げる。
主任は速度を半分に落とせば熱が下がると提案した。杏は試しに十個だけ低速で流し、斜め幅が小さくなる一方、シール時間が長すぎてチョコの表面が柔らかくなるのを見せた。一つの不良を隠す条件が、別の不良を作る。数字の上で生産が続いても、商品としては前へ進まない。
予備のカムフォロアは倉庫の奥に一個だけあった。杏は交換前に、直近二時間分の製品を隔離した。包みが閉じて見えても、圧着が弱ければ輸送中に開く。外観だけで合格にはできない。
交換後、タイミングベルトを元の張りへ戻し、シール刃の左右へ感圧紙を挟んだ。跡は均一だった。機械を十分温めてから百個流し、最初と最後の包みを重ねる。斜線は消えていた。
午前五時、限定品の箱がパレットへ積まれ始めた。主任は隔離品を一つずつ検査する班を組み、強く締めたベルトの記録を自分で訂正した。
杏が熱いカムフォロアを袋へ封じると、隣室から呼び出しが来た。今度はキャラメル切断機が三個おきに短い。甘い匂いの朝は、まだ包装の途中だった。