十五キロの子ども
立花誠也は自動車用品会社で、子ども用シートの仕入れを担当する新人だった。全国店舗への導入会議で、衝突試験証明書を確認していた。
対象製品は体重二十五キロまで対応。報告書には二十五キロのダミーで時速五十キロの衝突試験に合格とある。仕入部長の柿崎は、十万台の発注決裁を求めた。
誠也は証明写真に写るダミーの首元を拡大した。校正札の色が青い。
試験所では十五キロ用が青、二十五キロ用が赤と決められている。
「照明のせいで色が変わった」と柿崎は言った。
誠也は札の番号D15-308を読み取った。試験所の台帳では十五キロ用。二十五キロ用D25-114は同日、別メーカーが使用していた。
製造会社の責任者は、重量を追加して二十五キロ相当にしたと説明した。
誠也は映像を再生した。ダミーの腹部には追加重りを固定するベルトがなく、試験前後の重量記録も十五・二キロ。証明書の「25.2」は、先頭に2を加えていた。追加された数字だけ書体が新しい。
柿崎は、十五キロで安全なら軽い子どもには問題ないと主張した。だが製品箱には「六歳まで、二十五キロ」と印刷済みで、購入者は上限まで使う。
誠也の父は同社の店舗で働いていた。発注が止まれば販売計画が崩れ、現場に責任が押しつけられるかもしれない。それでも、重い子どもほど試験から消すわけにはいかなかった。
彼は証明書の署名時刻を示した。午前九時四十分。二十五キロ用ダミーが別試験から戻ったのは午後二時十八分である。
誠也は十五キロ用ダミーで生じた肩ベルト荷重も示した。それでも上限値ぎりぎりで、二十五キロならバックルが外れる解析結果だった。製造会社は解析にすぎないと反論したが、社内メールには『25kgでは解除、15kgで証明を取る』と試験責任者が書いていた。
仕入先選定委員長が発注書を回収した。十万台の決裁は、青い札を付けた十五キロの子どものところで止まった。