同じ一歩をもう一度
「直前の動作を一度繰り返させる《再演》? 大道芸の補助だ。無能」
王都闘技場の選抜で、コルムは剣を持つ前に失格となった。
《スキル:再演――相手が自ら完了した一動作を、直後に一度だけ反復させる》
同じ手を二度打つ間抜けはいない。相手が立つ、息をする程度の動作を繰り返しても勝負は変わらない。監察官ヴェルナはそう断じ、コルムを舞台係へ回した。
役者相手に試すと、剣を抜く芝居は二度目も同じ角度で繰り返された。本人が途中で止めようとしても、完了した動作の軌跡から外れられない。ただし、動作が終わる前には使えない。コルムは舞台袖で、相手が最も得意な技を出し切り、成功を確信した一瞬こそ狙い目だと学んだ。失敗した小技を繰り返させるより、完成された必殺技をもう一度やらせる方が、逃げ道は少ない。達人ほど、自分の型から外れることができないからだ。
決勝戦で、帝国の刺客が正体を現した。
優勝候補に化けていた男は、王女席へ向けて《無間歩》を使う。一歩で十間を抜け、途中のすべてを斬る奥義だ。護衛五人が血を噴き、刺客は王女の目前へ着地した。
ヴェルナが剣を投げるが、間に合わない。
刺客は一歩で勝負を終えたつもりで、次の斬撃へ腕を上げる。
舞台袖のコルムは、その足が完全に止まるのを待っていた。
《無間歩》は速さではない。“一歩を完了するまで世界から外れる”技だ。完了した動作なら、《再演》の対象になる。
「もう一度、お願いします」
刺客の身体が勝手に踏み出した。
同じ方向へ、同じ距離を、同じ姿勢で。だが王女はもう背後だ。刺客だけが十間先へ消え、闘技場の外壁を斬り抜け、その向こうの堀へ落ちた。
上げかけた剣も、悲鳴も、一歩に置き去りにされる。
刺客が水面へ浮かぶ前に、衛兵が網を投げた。
ヴェルナは血のついた剣を拾い、コルムの失格札を真二つに切る。
「最速の一歩を止めたのではない。勝ち誇って終えた一歩を、敗北まで続けさせたのか。大道芸ではない――皇族近衛の切り札として登録しろ」