呪いを受ける署名

守護契約の婚姻では、先に署名した者が、伴侶へ向けられた最初の呪いを代わりに受ける。

セリマは護衛隊長だった。

守る相手のエドリクは、新しい裁判官として、貴族にも平民と同じ刑を科す法を明日公布する。そのため毒見役が二人倒れ、寝室には呪い針が投げ込まれた。通常の護衛では、言葉だけで飛ぶ呪いを防げない。

「契約結婚なら防げます」と宮廷魔術師は言った。「ただし一度だけ。どんな呪いかは選べません」

エドリクは即座に断った。

セリマは翌朝、彼の印章を借り、婚姻契約書を作った。期間は法の公布まで。財産分与なし。寝室も別。署名順だけは、彼女が先と太字で記した。

「命令違反で解任する」

書類を見つけたエドリクは、執務室で怒鳴った。

「公布後にどうぞ」

「君が死ぬ契約へ署名できると思うか」

「死とは限りません。声を失う呪いか、眠りの呪いかもしれない」

「慰めになっていない」

二人は七年、裁判所で働いた。彼が証拠を読み、彼女が証人を守った。セリマが剣傷で倒れた夜、彼は判決文を放り出して治療院へ来た。けれど互いに仕事以外の言葉を選ばなかった。

この結婚も仕事だと、そう言えば簡単だった。

「法が必要なのは分かる」と彼は言った。「だが君を代金にする法なら、私は出さない」

「私一人を守るため、これからも金で判決が買われるほうが嫌です」

「一人ではない」

その一言だけが、契約書より重く机へ落ちた。

セリマは視線を逸らした。今ここで気持ちを認めれば、署名できなくなる。

窓の外には、明日の裁判を待つ長い列がある。夫に焼かれた妻、土地を奪われた農夫、貴族の馬車に子を轢かれた母。法が届くまで、生き延びられなかった人もいる。

「私の剣は、呪いには届きません。だから別の盾になります」

セリマは自分の欄へ署名した。

エドリクは長いあいだペンを持たなかった。やがて彼女の名を指でなぞり、その下へ自分の名を書く。

婚姻印が赤く光った直後、閉じた窓の外から女の声がした。

――裁く者の心よ、二度と誰も信じるな。

呪いはエドリクを通り過ぎ、セリマの胸へ沈んだ。

彼が駆け寄る。その顔を見ながら、彼女はなぜこの男を七年も信じていたのか、もう分からなくなり始めていた。