呪われた竿の一匹

呪具鑑定士トビアスは、王家の呪いを見抜いたせいで辺境へ追われた。

廃小屋には一本の黒い釣竿が残されていた。握った瞬間、穂先に赤い文字が浮かぶ。

――この竿は、持ち主が最も嫌うものだけを釣り上げる。

「趣味が悪い」

それでも食料は少なく、川には魚がいる。トビアスは初日の仕事を、呪われた竿で夕食を一匹釣ることに決めた。

彼が最も嫌うものは何か。王族、嘘、未払いの鑑定料。そんなものが川から上がれば困る。考えながら糸を垂らすと、最初に釣れたのは穴の開いた長靴だった。

次は錆びた王家の紋章板。その次は、宮廷鑑定院から届いた未払い請求書だった。どうやって川に入ったのか分からない。

「なるほど。全部嫌いだ」

魚は一向に来ない。代わりに割れた鏡、空の薬瓶、宮廷で彼を裏切った同僚の肖像まで上がった。川岸は嫌いなものの見本市になったが、トビアスは一つずつ焚き火の脇へ積んだ。呪いを恐れて竿を捨てるより、正体を確かめるほうが鑑定士らしかった。

トビアスは岸へ座り、腹の鳴る音を聞いた。嫌いなものを避けて生きてきた結果、辺境まで来た。それなら今、最も嫌いなのは何だろう。

答えは簡単だった。

空腹だ。

彼がもう一度竿を振ると、浮きはすぐ沈んだ。引き上げたのは、虹色の鱗を持つ太った川魚だった。竿の文字が一瞬明るくなり、消える。

「呪いも使い方次第か」

小屋の前で魚を串へ刺し、塩を振る。焚き火へかざすと、皮がぱちりとはぜ、脂の煙が長靴の湿った匂いを追い払った。鍋では葱に似た野草の汁が湯気を上げる。

そこへ王家の使者が来た。王の呪いが悪化したので、ただちに戻れという。報酬は過去の未払い分も含めて支払うらしい。

トビアスは使者の持つ金袋を見た。黒い竿の文字が、再び薄く浮かぶ。

――持ち主が最も嫌うもの。

彼は金袋ではなく、焼けた魚へ手を伸ばした。

「今いちばん嫌なのは、冷めた夕食だ」

使者を待たせ、魚の腹へ箸を入れる。白い身から湯気があふれた。

呪いは解けていない。だが今夜から、何を嫌い、何を選ぶかは、王家ではなく彼が決める。