囚人番号を呼ばない看守

更生兵団の防御試験で、ラゼリアは囚人オクタフの番号を呼ばなかった。

「私の仲間は七一三号ではなく、オクタフです」

監獄長は顔を歪めた。オクタフは冤罪を訴え続ける元薬師で、兵団へ送れば危険な任務で処分できる。試験という名の公開処刑を邪魔されたくなかった。

課題は、鎖につながれた仲間を魔法攻撃から守ること。合格すればオクタフの刑期が短縮され、ラゼリアは王都へ戻れる。だが監獄長は最初から処刑杖を持って試験場へ入った。

オクタフが投獄されたのは、監獄で流行した熱病へ勝手に薬を配ったからだった。薬品横領の罪を着せられたが、仕入れ帳には監獄長が薬を売り払った跡が残っている。新人看守だったラゼリアはその頁を見つけ、告発する代わりに更生兵団へ左遷された。今日の合格は、二人が証拠を王都へ運ぶ唯一の道だった。

ほかの受験者は合格点を得るため、囚人役を盾の前へ押し出していた。規則には『仲間が生存すればよい』としか書かれていない。ラゼリアは逆に自分の鍵束をオクタフへ渡す。中には証拠帳簿の保管庫を開ける鍵もあった。『私が倒れたら、あなたが届けて』。彼は鍵を握らず、彼女の背へ押し返した。

第一撃《刑雷》

紫電と煙が鉄柵を曲げ、見物の看守たちが耳を塞ぐ。監獄長は死亡確認を命じかけ、オクタフの足首を見た。

鉄の枷が赤くなっていない。

刑雷は金属へ流れ、囚人を内側から焼く術だ。枷が冷たいままなら、雷は二人へ一筋も届いていないことになる。

煙が晴れる。ラゼリアは腰の鍵束へ手を置いた同じ姿勢で立ち、オクタフは背後で倒れた看守へ応急薬を投げていた。自分を処分しようとした側まで助けたのだ。

「囚人の分際で慈悲を演じるな!」

監獄長は杖の処刑環を開いた。《罪骨穿》は肉体だけでなく防御魔法の術者を内側から砕く。試験監督の判事が中止札を掲げても、監獄長は二撃目を放った。

黒い光と煙が二人を隠す。ラゼリアは動かず、オクタフは背後で薬瓶の栓を締めた。

晴れたあと、監獄長は測定器をラゼリアの胸へ押し当てた。無効化なら零、障壁なら数値が出る。だが水晶には監獄長自身の歪んだ顔だけが映り、やがて内側から文字が浮いた。

《防御値:測定不能》