図書塔の返却印

魔導学院の図書塔で、禁書三冊が切り刻まれていた。

司書見習いのイリス・モランが呼ばれると、上級司書ザック・エヴァンは破片を彼女の机から拾い上げた。

「また君か。文字もろくに読めない地方出身者を雇うからだ」

ザックは日頃から、イリスへだけ重い本箱を運ばせ、返却期限を偽って罰金を払わせ、蔵書に触れるたび「汚れた手」と笑っていた。前の見習い二人も、同じ濡れ衣で塔を去っている。

「私は禁書庫へ入っていません」

「入室票には君の署名がある」

ザックが示した羊皮紙には、確かにイリスの名と印。彼は退職願まで用意していた。

「静かに去れば、学院衛兵には渡さない」

イリスは破れた一ページを返却台へ置いた。

台の青い光が、最後にその本を扱った者の返却口上を再生する。

『地方娘の机へ入れろ。明朝、私が見つける』

ザックの声が塔内に響いた。

彼は顔色を変え、ページを燃やそうとする。しかし禁書の紙は炎を吸い、代わりに触れた指の魔力紋を金文字で浮かべた。ザックの司書印である。

「イリスに命じられてやった者がいる。私の声は複製された」

「では入室票を調べましょう」

イリスの署名は本物に見えたが、返却台は筆記具まで記録する。使われたのはザックの自動筆記羽根だった。羽根は命令者の魔力を文字の下へ残すため、偽名を書いても消せない。

さらに禁書庫の扉は、ザックが『見習いへの実地教育』として例外解錠していた。自分の権限で入り、自分の声で破壊を命じ、自分の筆で濡れ衣を作ったのだ。

塔の最上階から学院長と王立司書監が降りてくる。今日は蔵書監査日で、返却台の記録はすでに王都へ複製されていた。

ザックは急に笑顔を作る。

「厳しくしたのは彼女の才能を伸ばすためです」

イリスは退職願を閉じ、未記入のまま返した。

「本を切っても、記録までは切れません」

司書監が永久資格簿を開く。

「ザック・エヴァン。禁書毀損、文書偽造および見習いへの継続的虐待により、司書資格を永久剥奪する」