墓標のメトロノーム
墓地管理人の土岐野征一へ、差出人のない小さな手回しオルゴールが届いた。
蓋の裏に、ひと言だけ刻まれている。
「数えて」
征一は夜の管理室でハンドルを回した。イントロは五つの音。間隔が不揃いで、音楽というより番号の読み上げに近い。
二、十四、六、三十一。
墓地の区画番号だと気づいた。順に見回ると、どの墓も同じ日に納骨されていた。二十年前、豪雨で崩れた共同墓地から移された遺骨。記録は曖昧で、征一の父が人数を少なく申告し、余った補償金を隠した事件だった。
オルゴールの紙テープに、同じ文字がある。
「数えて」
Aメロにあたる旋律が進むたび、区画番号が増える。公式記録では二十三人。だが音は二十四、二十五、二十六と続いた。父は身元不明の遺骨をまとめ、人数から消していた。
征一は懐中電灯を持ち、指定された墓を開けるわけにもいかず、管理台帳をめくった。番号の脇に、幼い頃の自分の筆跡で印がある。父に言われ、遺骨箱の数を数えた夜。途中で眠り、適当な数字を書いた。
サビのように音が高くなる。管理室の壁に掛けた鍵が、一つずつ震える。各区画の監視灯が点き、暗い墓地に二十七の光が並んだ。
公式記録より四つ多い。
最後の紙テープだけ、区画ではなく日付を示していた。今日の日付。その後に、管理室の番号。
征一はハンドルを止める。音も止まるはずだった。
だが内部の歯車は勝手に回り続ける。
「数えて」
最後だけ、その言葉は墓の数を確かめる命令ではなかった。
自分に残された拍を数えろ、という予告だった。
一音ごとに室内の酸素警報が点滅する。父が補償金で作った古い暖房機から、無臭のガスが漏れていた。征一は窓へ走り、倒れ込みながら換気レバーを引く。
最後の一音と同時に警報が本鳴りする。彼は助かった。
机のプリンターから、埋葬者名簿が吐き出される。作曲者欄には、〈第二区画から第三十一区画までの二十七名〉。
匿名の死者たちは征一を殺そうとしたのではない。
父と同じように数をごまかさず、今度こそ全員を数え直させるため、命の残り拍まで鳴らしたのだった。