壊れるまで脱げない鎧

 真昼は仲間の剣を肩で受けた。

「もっと強く!」

「本当にいいのか、マヒル!」

 黒い鎧の耐久値が十二から九へ減る。鎧は彼女の腕を勝手に動かし、背後の仲間へ大剣を振り下ろした。

【黒騎士甲冑】

【耐久値がゼロになるまで解除不能】

【現在耐久 9/999】

 耐久を減らすには、装備そのものへ正確に攻撃を当てなければならない。外せないだけなら高性能な鎧だったが、ひびが入るほど中の声は大きくなり、真昼の指や舌まで奪った。味方の攻撃は痛みとして彼女にも届く。だから討伐隊の多くは、鎧を壊すより宿主ごと倒すほうが早いと判断した。真昼は動かせる瞳だけで鎧の継ぎ目を示し、ユアンはその視線を三日かけて読み取った。

 三日前、魔王城の宝箱から装備した瞬間、真昼は身体の主導権を奪われた。鎧は仲間を斬りながら城の最上階へ進み、玉座に座った。宝箱の周囲に魔王の死体がなかったことも、装備後にだけ城の門が閉じたことも、皆は演出だと思った。だがこの城で目覚めた敵は、最初から鎧一つしかいなかった。

 直後、頭上へ表示された名は《魔王マヒル》。討伐隊は彼女こそ最終ボスだと思った。

「早く倒せ!」

 鎧が叫ばせる。声まで真昼のものだから、誰も中に別の意志がいると信じない。

 ただ一人、鍛冶師のユアンだけが装備説明を見た。

「倒すんじゃない。壊すんだ!」

 仲間たちは真昼の体力を削らないよう、鎧の継ぎ目だけを狙った。耐久五、三、一。

 鎧は大剣を自分の喉へ向けた。宿主を殺せば、耐久が尽きる前に討伐が終わる。

 真昼は残った力で刃を止める。

「今!」

 ユアンの槌が胸当てを砕いた。

 耐久値ゼロ。黒い金属が悲鳴を上げ、真昼の身体から煙のように剥がれる。床へ落ちた鎧だけに巨大な体力ゲージが現れた。

 仲間の一撃で、それは消滅した。

【装備《黒騎士甲冑》が破壊されました】

【プレイヤー《マヒル》のボス属性を解除】

【隠しクエスト《魔王を脱がせる》達成】

【真の討伐対象――装備者を名乗っていた寄生アイテム】