売り切れにしない補充
鐙木千夏は、夜間外来のある病院で飲料自販機を補充していた。依頼は、毎晩売り切れる水を増やすこと。管理画面では三列とも空になっているのに、機械を開けると奥に缶が残っていた。
新人は補充数を増やそうとした。
「もっと詰めれば、朝まで持ちます」
千夏は缶を入れず、一列目の押し出し板を指で動かした。途中で引っかかる。水の缶だけ、ほかの商品より数ミリ背が高い。ロケーションの表示は合っているが、棚の上に付いた広告板のねじが内側へ出て、先頭の缶をわずかに傾けていた。機械は商品が出ないたび売り切れと判定していたのだ。
広告板を外せば直る。しかし病院との契約で、広告面を勝手に変えることはできない。千夏は水のフェイスを一列減らし、ねじに当たらない下段へ移した。代わりに背の低い茶を上段へ入れる。商品表示もその場で差し替え、購入ボタンと実物がずれないよう、新人に一列ずつ押して確認させた。
残っていた水には賞味期限の古いものが混じっていた。前から詰まっていた証拠だ。千夏は新しい缶を奥へ押し込まず、古いものを手前へ並べ直した。
「売り切れ表示でも、機械の中では時間が進んでる」
彼女は一本を試しに購入した。缶は音を立てて落ち、表示数が一つ減った。
待合室の家族がすぐに水を買った。点滴台を押した患者が、その音に顔を上げる。補充員の仕事を誰も見ていないが、出てこない一本は、夜の病院では大きい。
千夏は一度出ただけで直ったとは判断せず、三本続けて購入試験をした。一本目は動いても、二本目で後ろの缶が傾くことがある。排出された水は病棟スタッフへ渡し、在庫数を手入力で戻した。機械を直すための商品を、売上に見せるわけにはいかない。
作業報告を送ると、別棟の自販機から温度異常の通知が来た。千夏は外した広告板を車へ積み、次の機械のロケーションを開いた。売り切れを直した直後に、今度は冷えすぎた飲み物が待っていた。
落下口の奥で、次の一本がまっすぐ立っていた。