売れ残り薬師と熱を出した神獣
村外れの薬師ヤナは、治療代を払えない者ばかり診るので「売れ残り」と笑われていた。神殿の資格試験では、無料診療をやめない限り推薦しないと言われ、受験票さえもらえなかった。
ある雨の夕方、その軒先へ白狼が倒れた。
村人は戸を閉め、司祭は「病を運ぶ凶獣だ」と鐘を鳴らした。白狼の息は荒く、白い毛が雨に張りついている。
ヤナは傘も差さずに駆け寄った。
「病を運んでるんじゃない。病気なのよ」
ヤナはまず耳元へ手を近づけ、触れてもよいか待った。白狼が逃げずに目を閉じたのを見て、ようやく額へ掌を置く。熱い。左の前足が腫れ、肉球の間へ赤い実の棘が刺さっている。傷口に泥が入り、熱を持っていた。
ヤナは戸口へ毛布を敷き、白狼が自分から乗るまで待った。金の目が警戒に細まる。
「代金は後でいいわ。いつもそうしてるから」
白狼は苦しそうな息の合間に、かすかに尾を鳴らした。笑われたような気がして、ヤナも少し笑った。
白狼の耳が少し動いた。
彼女は棘の周りを湯で洗い、先を折らぬよう細い毛抜きで引いた。膿を出し、苦くない薬草を潰して当てる。白狼は痛みで爪を立てたが、ヤナの手には決して触れなかった。
次に雨で冷えた体を乾いた布で拭き、炉の前へ移す。水へ肉汁を少し混ぜると、白狼は弱々しく舐めた。
夜半、熱が下がる。
白狼は目を開き、最初にヤナの顔を探した。彼女は椅子へ座ったまま眠っていた。
朝になると司祭が役人を連れてきた。
「神獣は神殿が管理する。無資格の薬師は離れよ」
ヤナが立ち上がる前に、白狼は彼女の前へ回った。包帯を巻いた足でしっかり立ち、額に薬瓶形の銀印を浮かべる。同じ印がヤナの掌へ移り、神獣医の称号が光の文字で現れた。
役人はその場で膝をついた。資格を与える側より古い権威だった。役人の名簿では、ヤナを落とし続けた神殿の治療所より上段に、彼女の小屋の名が刻まれていく。
ヤナは困ったように笑う。
「治療代、ずいぶん高くついたわね」
白狼は鼻を鳴らし、彼女の膝へ熱の引いた頭を預けた。乾いた白毛は炉辺で干した毛布よりふっくらし、まだ少し高い体温と心地よい重みが、徹夜の疲れをゆっくり押し流していった。