夏休みの宿題は二人分
神庭啓介は、十一歳の竹森莉央と二度目の夏休みを迎えた。
啓介は在宅で設計の仕事をし、莉央は居間の隅で宿題をする。
里親と里子という関係は学校も近所も知っているが、二人の間では、ただ同じ冷蔵庫を開ける者同士だった。
宿題に〈家族と夏の工作をしよう〉という紙があった。
莉央はそれを裏返し、算数から先に始めた。
「工作、やらないの?」
「家族の宿題だから」
「私は保護者欄に名前を書く人です」
「そういう固い言い方やめて」
啓介も困って黙った。
午後、窓辺の風鈴が割れた。
紐が切れ、硝子の縁が欠けている。
莉央は残った短冊を拾い、
「これ、工作にできるかも」
と言った。
二人で新しい風鈴を作ることにした。
空き瓶の底へ穴を開けるのは危ないので、啓介が細い金具を取りつけた。莉央は針金へ小さな貝殻を結び、短冊へ青い波を描く。
「家族工作?」
啓介が訊く。
「共同作業」
「提出条件は満たす?」
「先生に訊かない」
莉央は笑った。
瓶を軒下へ吊るす。
風が吹くと、貝殻が硝子へ当たり、からん、と低い音がした。
市販の風鈴より鈍いが、二人には十分涼しく聞こえた。
工作の記録用紙へ、莉央が書く。
〈家にあった瓶と貝殻で風鈴を作りました〉
家族の欄で鉛筆が止まった。
啓介は口を出さず、台所でスイカを切った。
赤い果肉から青い皮の匂いが立つ。
莉央はしばらくして、欄へ〈啓介さんと〉と書いた。
「家族って書かないの?」
「名前の方が分かりやすい」
「確かに」
啓介は一番甘そうな中心を莉央の皿へ置いた。
二人で縁側へ座り、スイカを食べた。
種を紙皿へ出し、どちらが遠くへ飛ばせるか小さく競う。啓介の種はすぐ足元へ落ち、莉央は庭の石まで飛ばした。
「設計士なのに角度が悪い」
「これは専門外」
提出日の前夜、啓介は保護者コメント欄へ書いた。
〈二人で作りました。音は少し低いですが、よく鳴ります〉
家族という言葉は使わなかった。
夏の夜、瓶の風鈴がからんと鳴る。
縁側にはスイカの甘い香りと、日に温められた木の匂いが残った。
宿題は一枚だったが、作った時間は二人分だった。それで十分、家の夏になっていた。