外商袋の中身
学校の慈善バザーに、藤袴森怜華は百貨店の外商袋を十枚持ってきた。
「主人が紳士服の統括バイヤーだから、ブランド品を特別に回してもらったの。庶民的な手作り品だけでは華がないでしょう」
真珠ヶ丘和澄は、子どもと縫った布袋を並べていた。
怜華は値札を見て笑う。
「ご主人、百貨店の裏方だったわよね。倉庫の余り布なら、もっと安くしたほうが売れるわ」
和澄は「店を支える仕事です」と答えた。
開場前、怜華の夫・水無月原和臣が検品に来た。外商袋の中身を見るなり顔色を変える。
「これは売場の貸出サンプルだ。どうして持ち出した?」
怜華は、バザーで宣伝すれば問題ないと答えた。
そのとき、百貨店グループから来賓が到着した。和臣は入口へ向かい、和澄の夫へ深く頭を下げた。
「真珠ヶ丘社長、本日はありがとうございます」
真珠ヶ丘遥宗は、全国百貨店と物流会社を持つグループの代表取締役だった。倉庫へ行くのは、廃棄される包装材や返品商品を確認し、再利用事業を進めるため。和澄の布袋も、百貨店の古い懸垂幕を正式に譲り受けて作ったものだった。
怜華は外商袋を抱きしめた。
「和臣は統括バイヤーでしょう? 社長と同じ経営側よね?」
「僕は部門の仕入れ責任者だ。社長は会社全体の責任者だ」
貸出サンプルには管理用タグが付き、売却は禁止されている。怜華はタグを切って高値で売り、その売上を自分の寄付実績にするつもりだった。
遥宗は和臣へ事実確認を任せ、怜華を公衆の前で責めなかった。和臣は全商品を回収し、会社へ報告すると告げる。
代わりに和澄の布袋が、正規のチャリティー商品として百貨店全店で販売されることが発表された。利益は子ども食堂へ寄付される。
怜華は和澄へ小声で言った。
「社長夫人なら、もっと高級品を寄付すればいいのに」
和澄は、子どもが縫った少し曲がった持ち手を撫でた。
「捨てるものを減らして、必要なところへお金を渡すほうが、このバザーには合うでしょう?」
外商サンプルが空の袋へ戻され、和臣が社長へ謝罪した瞬間、百貨店の看板で慈善まで飾ろうとした怜華だけが、顔面蒼白で袋の中身を失った。